ブラウン×ポール・スミスのコラボレートによる2本の新作ウォッチが登場。

ドイツプロダクトデザイン大手のブラウンと、イギリスのファッションブランドであるポール・スミスが再度コラボレートし、今度はスイス製ETAムーブメントを搭載したモデルを発表した。

新作ウォッチ1本目(BN0279SLPS)は、ETA 2895-2ムーブメントを搭載したスモールセコンドと日付表示付きの40mm径マットシルバーステンレススティール製モデルだ。2本目(BN0279GNPS)も40mm径だが、マットなガンメタルのSS製ケースで、ETA 2892A2ムーブメントを搭載する。どちらもレインボーの秒針と3時位置に日付表示を備える。またシースルーバックで、ムーブメントが見えるようになっている。

生成される各リファレンスは100本のみ。しかも950ドル(日本円で約14万円)もする。

さて、ブラウンが1989年に作った最初のアナログウォッチを振り返ってみよう。お察しのとおり、AW10は33mmというシンプルな3針ウォッチだった。実際にはディートリッヒ・ルブス(Dietrich Lubs)とディーター・ラムス(Dieter Rams)による、機能性と視認性というビジョンを反映してつくられたものだ。おそらくこれは、2023年にはもっと大きなフォントサイズが必要だという事実を示しているのではないだろうか? 私たちの目が弱くなってきている? 画面からくる疲れ? よくわからないけれど。最新版のAW10は3万8500円(税込)で購入できる。

私はブラウンならAW20がいい。トニー・トライナはかつて、それが史上最高の日付窓を備えていると主張していたことがある。本当の話なら大きい。

話を戻して、この新しい40mm径自動巻きモデルには、6時位置にポール・スミスのサインが刻印されている。すっきりとしたミニマルなルックだ。これらのデザインはオリジナル製品から大きく逸脱することはない。

我々の考え
ブラウンは実は地味なコラボキングだ。オフホワイトやハイスノバイエティともコラボしたことがあり、ハイプの力はお手の物だ。しかし今回ポール・スミスと一緒に仕事をすることで、少し違ったデモを見ることができたのは確かだ。もう少し大人っぽく、もう少し洗練されていて、 “クリーニング屋から戻ってきたら、すぐにシャツをしまって、色やシーン別に掛けておく”ようだ。

ブラウンとのコラボレーションは、ディーター・ラムスのコアデザインの信条から大きく逸脱することはない。クールかつクリーンで、ミニマルなのだ。

ブラウンの腕時計に950ドル(日本円で約14万円)払うように説得するのは少し難しいかもしれないが、これは限定モデルであり、また自動巻きムーブメントとメンズウェアの生みの親であるポール・スミスによるお墨付きをもらっているのだ!

Braun x Paul Smith Watch
基本情報
ブランド: ブラウン(Braun)
モデル名: ポール・スミス + ブラウン BN0279(Paul Smith + Braun BN0279)

型番: BN0279SLPS(スモールセコンド)、BN0279GNPS(センターセコンド)
直径: 40mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: グレー
夜光: あり
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: 22mm幅ブラックPUストラップ

ムーブメント情報
Braun x Paul Smith watch caseback
キャリバー: ETA 2895-2、ETA2892A2
機能: 時・分表示、スモールセコンド、日付表示(スモールセコンドモデル)/時・分表示、センターセコンド、日付表示(センターセコンドモデル)
直径: 25.6mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 27(スモールセコンドモデル)、21(センターセコンドモデル)

価格 & 発売時期
価格: 950ドル(日本円で約14万円)
発売時期: 発売中
限定: あり、各リファレンス100本

史上最も複雑な時計のひとつだった。

史上最も複雑な時計のひとつは、毎年恒例のイースター休暇を本当に計算できるのだろうか?

パテック フィリップが創業150周年を記念して、初代Cal.89を発表したとき(1989年)、それは史上最も複雑な時計のひとつだった。Cal.89に搭載された最も珍しいコンプリケーションのひとつは、イースター(復活祭)の日付を示すものであり、(私が知る限りでは)それ以降同じものは作られていない。その理由は、パテックがイースターの日付表示メカニズムの特許を持っているからだけではない。真のイースター日付複雑機構は、時計製造においておそらく最も困難な複雑機構であるという事実も関係しているのだ。それだけに、Cal.89にもかかわらずどう考えてもそれは不可能かもしれない。

Patek Caliber 89 dial recto
パテック フィリップ Cal.89。ラトラパンテクロノグラフ、ムーンフェイズ、パーペチュアルカレンダー、そしてチャイムのコンプリケーション機能を搭載している。

販売されたCal.89

史上4本しか製造されなかったCal.89のうちの1本が、まもなくジュネーブ・サザビーズで販売される。5月14日に予定されているロット171のリストはこちらからチェックを。

Cal.89のイースター日付機構は、1983年にパテック フィリップが特許を申請したものである。この特許には、イースターの日付メカニズムの発明者として、ジャン=ピエール・ミュジ、フランソワ・ドヴォー、フレデリック・ゼシガーが名を連ねている。ジャン=ピエール・ミュジは40年近くパテック フィリップに在籍し、長年にわたり同社のテクニカルディレクターを務めた。イースターの日付を表示する機構は、1989年から2017年までの正しい日付を表示するよう設計された。今、Cal.89の4本の時計がすべて修理を必要としている理由は、Cal.89が正しい日付を“認識”している仕組みに関係している。

イースターは、キリスト教暦の“移動祝日(年により日付が変わる宗教上の祝日)”のひとつ。毎年違う日が祝日になるのだ。イースターの基本的なルールは、春の最初に訪れる満月(春分の日のあとの最初の満月)のあとの最初の日曜日だ。そして天文現象により、イースターの日付は毎年変わる(暦の不規則性と同様、ただひとつの日付を選ぶというさまざまな提案が何世紀にもわたってされているが、今のところどれも定着していない)。このため、イースターは3月22日から4月25日のあいだのどこかとなる。

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 Cal.89のイースター日付機構は、ノッチ付きプログラム歯車のおかげでイースターの正しい日付を認識してくれる。基本的に、プログラム歯車は1年ごとに1ステップずつ進み、各ステップの深さは異なる。その深さに応じて、イースターの日付を示す針がその年の正しい日付にジャンプするのだ。

Diagram, date of Easter mechanism, Patek caliber 89
パテック フィリップ Cal.89のイースター日付機構。オリジナル特許より。

 そのメカニズムは結構シンプルだ。上の特許図面からは、3時位置のすぐ右側にプログラム歯車と、実際の針を動かすクエスチョンマーク型のラックが見える。そこに針そのもの(15番)と、正しい日付にジャンプした針を固定するための渦巻バネが示されている(ラックはレバー27によって持ち上げられ、レバー27は28で回転する。同じレバーは、歯車40を介してプログラム歯車を記録する。ラックの足がプログラム歯車のステップ10のいずれかに乗っており、26のバネによって固定されているのがわかるだろう)。

 この独創的に設計されたメカニズムの唯一の問題は、プログラム歯車のステップ数が限られていることだ。プログラム歯車を見ると、古典的なパーペチュアルカレンダーの中心にあるものを思い出すかもしれないが、うるう年のサイクルは4年に1回(100年と400年で補正があるが、これも予測可能な周期だ)確実に繰り返される。一方、イースターの日付はもっと長い年月の間隔で可能な日付の完璧な順序を繰り返すため、プログラムディスクへ完全に変換することはできないのだ。

Patek Philippe Caliber 89 astronomical indications
Cal.89のイースターの日付は、天空星座図の上のセクターに(レトログラードで)表示されている。

 イースターの日付を計算するのは、昔はそれほど複雑ではなかった。ユリウス暦による規則がかなり単純だったからだ。満月の日の完全な周期は、235の太陽月からなる19年周期に従うと考えられていた(ヴァシュロンの超ハイコンプリウォッチ、57260の取材記事で覚えているかもしれないが、いわゆるメトン周期だ)。そしてユリウス暦の完全な周期は76年であった(4回のメトン周期のあと、19×4=76年で、完璧にうるう年周期も完了する)。イースターの日付は、ユリウス暦では536年ごとに繰り返される。イアン・スチュワートが2001年のサイエンティフィックアメリカン誌の記事で指摘しているように、数学的原理は“532年は76年(ユリウス暦の周期)と7年(1週の日の周期)の最小公倍数である”。しかし周知のように、ユリウス暦は太陽の周りを回る地球の実際の時間と、暦の日数を適切に補正することができず、次第に季節と大きくずれていった。

 そこにローマ教皇グレゴリウス13世が現れた。彼は新しい暦(現在のグレゴリオ暦)を制定し、ユリウス暦のずれを修正するために、1582年10月4日(木)の翌日を、10月5日(金)ではなく、10月15日(金)とする一度限りの更新を命じた(家主側が1週間半分の家賃を奪おうとしていると見て、多くの農家がこれに反発したという)。

Bust of Pope Gregory III, Mengati
教皇グレゴリウス13世の胸像。1559年、アレッサンドロ・メンガティ作。Photo: Wikimedia Commons

 新しい暦では、イースターの日付を計算する新しい手順が導入された。各年にはエパクト(Epact)と呼ばれる番号が割り当てられ、これは1月1日の月齢を表していた(各番号は1から29のいずれか)。また毎年1月の第1日曜日には、対応する文字が与えられた(A~G)。これらの“主日文字”(うるう年は2になる)とその年のエパクト、そしてゴールデンナンバー(メトン周期の位置)は、イースターの日付を計算するために使用される材料となる。ただこれらは基本的なものにすぎず、教会論の月と彼岸を天文学的なものに適切に合わせるためには、実際の計算がはるかに複雑になる定期的な調整が必要となる(物事がいかに早く複雑になるかを知るには、エパクトのサイクルに関するこちらの記事をご覧いただきたい。きっと信じられないほど細かい部分への関心が高まるだろう)。

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 いくつかのポイントがある。まず、計算で考慮される天文現象は抽象的なものである。教会論は3月21日を春分の日と決めているが、実際の天文学上の春分の日は年によって異なる。第2に、天文学的な満月と教会論の満月は必ずしも一致しない。グレゴリウス13世が暦を改革して以来、そしてそれ以前から、イースターの正しい日付を吐き出すアルゴリズムを作ることは、数学者にとって気晴らしになっていた。19世紀最大の数学者と呼ばれるカール・フリードリヒ・ガウスは、1800年にこのようなアルゴリズムを考案し、ドナルド・クヌース(彼はジョン・コンウェイが発見した無限大よりも、はるかに大きな数の集合を発見したことを表す“超現実数”という言葉を作ったことで有名)は『The Art Of Computer Programming』のなかで、 “中世ヨーロッパにおける算術の唯一の重要な応用は、イースターの日付の計算であったことを示す多くの証拠がある”と書いている。

Astronomical dial of the Caliber 89, with indication of sunrise and sunset, the Equation of Time, star chart, position of the Sun along the Plane of the Ecliptic, and the date of Easter.
Cal.89の天空星座図には、日の出と日の入り、時間の方程式、星座早見盤、黄道面に沿った太陽の位置、そしてイースターの日付が表示される。

(教会暦で)イースターの日付を計算する方法をコンプトゥス(computus)と呼ぶ。プログラムディスクに頼るのではなく、真の機械コンプトゥスを作ることは可能なのだろうか? 答えは“一応できる”だ。最初の本格的な機械コンプトゥスは、ガウスがアルゴリズムを考え出してまもなく作られたようで、現在はフランスのアルザス地方にあるストラスブール大聖堂の天文時計という、多くの時計愛好家が知っている場所に設置されている。実際には1354年頃から3つの連続した天文時計があったのだが、最新のものは1843年に完成した。ジャン=バティスト・シュヴィルゲによって設計されたこのコンプトゥスは、おそらく史上初の本物の機械コンプトゥスを備えている。機械コンプトゥスはこれだけではないが、ほかのコンプトゥスに関する英語の文献を見つけることはできなかった(ストラスブール大聖堂のコンプトゥスに関する本の書評の転載版には、ほかにも少なくともふたつの“似たような”機構があると書かれている)。

 確かに、動作原理という点ではこの種の時計は唯一無二のものだ。私はそれがどのように機能するかを積極的に研究しようとしているが、控えめに言っても困難な状況だ。コンプトゥスを使わなくとも、時計自体は時計製造において名作だ。1999年、サイエンス誌に掲載されたブライアン・ヘイズの記事によると、時計の天文列には2500年に1回転する歯車があり、さらにこの時計には、2万5000年に1度だけ春分歳差運動を示す軸を中心に1回転する天球儀が搭載されているという(同記事は2000年問題への対応と、ストラスブール大聖堂の時計がいかにして2000年問題への対応を果たしているかについてのものだった)。

The astronomical clock in Notre-Dame-de-Strasbourg Cathedral
ノートルダム=ド=ストラスブール大聖堂の天文時計。Photo: Wikimedia Commons

 時計に興味のある人(そして知性を追求したい人)には幸いなことに、このコンプトゥス機構を見ることができる。それは時計の台座の左下にあるケースに展示されている。歯車の集合体のなかには、今年のエパクトと、現在の主日文字の表示があるのがおわかりいただけるだろうか。黄金比、またはゴールデンナンバーは、計算にも必要なメトン周期におけるその年の位置に対応する数字であり(図が示すように、1から19まで)、これも計算に必要である。

ブラウン×ポール・スミスのコラボレートによる2本の新作ウォッチが登場。

そして今回はスイス製機械式ムーブメントを搭載している。

ドイツプロダクトデザイン大手のブラウンと、イギリスのファッションブランドであるポール・スミスが再度コラボレートし、今度はスイス製ETAムーブメントを搭載したモデルを発表した。

新作ウォッチ1本目(BN0279SLPS)は、ETA 2895-2ムーブメントを搭載したスモールセコンドと日付表示付きの40mm径マットシルバーステンレススティール製モデルだ。2本目(BN0279GNPS)も40mm径だが、マットなガンメタルのSS製ケースで、ETA 2892A2ムーブメントを搭載する。どちらもレインボーの秒針と3時位置に日付表示を備える。またシースルーバックで、ムーブメントが見えるようになっている。

生成される各リファレンスは100本のみ。しかも950ドル(日本円で約14万円)もする。

さて、ブラウンが1989年に作った最初のアナログウォッチを振り返ってみよう。お察しのとおり、AW10は33mmというシンプルな3針ウォッチだった。実際にはディートリッヒ・ルブス(Dietrich Lubs)とディーター・ラムス(Dieter Rams)による、機能性と視認性というビジョンを反映してつくられたものだ。おそらくこれは、2023年にはもっと大きなフォントサイズが必要だという事実を示しているのではないだろうか? 私たちの目が弱くなってきている? 画面からくる疲れ? よくわからないけれど。最新版のAW10は3万8500円(税込)で購入できる。

復刻版のブラウン AW10。Photo: courtesy Braun P&G

私はブラウンならAW20がいい。トニー・トライナはかつて、それが史上最高の日付窓を備えていると主張していたことがある。本当の話なら大きい。

話を戻して、この新しい40mm径自動巻きモデルには、6時位置にポール・スミスのサインが刻印されている。すっきりとしたミニマルなルックだ。これらのデザインはオリジナル製品から大きく逸脱することはない。

我々の考え
ブラウンは実は地味なコラボキングだ。オフホワイトやハイスノバイエティともコラボしたことがあり、ハイプの力はお手の物だ。しかし今回ポール・スミスと一緒に仕事をすることで、少し違ったデモを見ることができたのは確かだ。もう少し大人っぽく、もう少し洗練されていて、 “クリーニング屋から戻ってきたら、すぐにシャツをしまって、色やシーン別に掛けておく”ようだ。

ブラウンとのコラボレーションは、ディーター・ラムスのコアデザインの信条から大きく逸脱することはない。クールかつクリーンで、ミニマルなのだ。

ブラウンの腕時計に950ドル(日本円で約14万円)払うように説得するのは少し難しいかもしれないが、これは限定モデルであり、また自動巻きムーブメントとメンズウェアの生みの親であるポール・スミスによるお墨付きをもらっているのだ!

基本情報
ブランド: ブラウン(Braun)
モデル名: ポール・スミス + ブラウン BN0279(Paul Smith + Braun BN0279)

型番: BN0279SLPS(スモールセコンド)、BN0279GNPS(センターセコンド)
直径: 40mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: グレー
夜光: あり
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: 22mm幅ブラックPUストラップ

ムーブメント情報
Braun x Paul Smith watch caseback
キャリバー: ETA 2895-2、ETA2892A2
機能: 時・分表示、スモールセコンド、日付表示(スモールセコンドモデル)/時・分表示、センターセコンド、日付表示(センターセコンドモデル)
直径: 25.6mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 27(スモールセコンドモデル)、21(センターセコンドモデル)

価格 & 発売時期
価格: 950ドル(日本円で約14万円)
発売時期: 発売中
限定: あり、各リファレンス100本

アビエーションに深いつながりを持つブランドと作り上げた、トラベラーGMTウォッチ。

ロンジンから発表された比較的新しいコレクションだ。しかしその背景には、かねてより深いつながりを築いてきたアビエーションへの敬意と、ブランドがこの分野で築いてきた確かな実績がある。パイロットウォッチらしく視認性に優れた無骨なディテールと、ロンジンが創業当時より大事にしているというエレガンスを現代的な時計製造技術を用いて融合させたモダンなミリタリーウォッチだ。登場からまだ3年ながらリリースのテンポは速く、2021年にはチタン製ロンジン スピリット、2022年には42mm径のZulu Time、そして今年2023年にはZulu Timeの39mm径にフライバッククロノ(しかもそのチタンモデルまで!)と、僕たちの関心を誘うモデルが次々に登場している。

そして、その勢いに乗るかのようなタイミングで、ロンジン スピリット Zulu Time リミテッドエディション for HODINKEEを、12月5日(火)の深夜に全世界に向けて発表した。ロンジン スピリット Zulu Time 39mmをオールグレード5チタンで仕上げた、税込価格で60万円を切るハンサムなトラベルウォッチだ。

少し話は逸れるが、僕はあまり国外への渡航経験がなく、これまではGMT機能についてタキメーターやヘリウムエスケープバルブのように“自分ではおよそ活用しないが便利なもの”として分類していた。しかしパンデミックがようやく落ち着きを見せた今年、距離的にも精神的にも遠く感じていた海外が、再び僕たちの生活に戻って来つつある。2023年は時計業界でも、国内外問わず遠方に足を運ぶイベントが目に見えて増えた年だった。加えてここ最近続いているトレンドもあり、今年は(とにかく多かった)GMTウォッチのリリースに目を奪われ続けていたように思う。そんななか、リリースされたばかりのコラボウォッチが編集部に届いた。ケースを開けて手首に乗せた瞬間、僕の心は大きくざわついた。それから1週間ほど経つが、この時計とともにまだ見ぬスイスの地を行くイメージが頭の片隅にこびりついている。最初に手に取ったときに感じた高揚が何だったのか、確かめるべく再び箱から取り出してみた。

改めて、ロンジン スピリット Zulu Time リミテッドエディション for HODINKEEのサイズからチェックしていこう。ベースとなったのはロンジン スピリット Zulu Timeの39mm径モデルで、厚さは13.5mm、ラグトゥラグは46.8mmと、ジェームズがSSモデルの記事で述べているようにスポーツウォッチとしてあらゆる人が身につけやすいミドルサイズに仕上がっている。僕の手首周りは約17cmで、これは日本人男性の平均と一致するそうだが、下写真でご覧いただけるとおり大きすぎず、小さすぎもしないジャストなフィット感だ。手首の幅に対してラグの余りもない。

特筆すべきは、サイズに対しての圧倒的な軽さだ。39mm径のステンレススティール(以下SS)モデルの本体重量が99.3gであったのに対し、今作はグレード5チタンの採用によって約半分となる51gまで抑えている。ムーブメント自体に変化がないことを考えると、大変なダイエットだ。この写真を撮影した日は直前までロンジンのクロノグラフモデル(ストラップを除く重量は98.2g)をつけていたが、いざ今作を手首に乗せたときのギャップは大きかった。ブレスは従来モデル同様、21mmから16mmまで強くテーパーした品のあるスタイルだが(このブレスはジャケットを着るような日のスタイリングにもしっくりくる)、手首を大きく動かしたときもヘッドの重量に振り回される感覚はまったくなかった。

また、素材とともに仕上げにも言及しておきたい。SSと比較してチタンの質感は温かみがあると表現されることが多い。今回のコラボモデルにおいても、ベゼル正面やケースに見られるヘアライン部はチタンならではの柔らかな光を放っている。しかし一方で、ポリッシュ部はSSと見紛うほどの仕上げが施された。特に、ヘアラインとポリッシュが交互に施されたブレスのコントラストには目を引かれる。ブレスのサイドにもポリッシュがかけられており、ふと傾けて見たときに美しく光り輝く。

なお、もうご存じの人も多いと思うが、Zulu Timeは時針のみを1時間刻みで動かすことができるローカルジャンピングGMT機能と、回転ベゼルによる第3時間帯表示を備えた時計だ。前者は完全に針を停止させることなく現地時間に調整することができる便利な機能であり、“トラベラーGMT”と呼ばれることもある。同価格帯での競合は今でこそ増えているものの、かつてはGMT針単独稼働型のいわゆる“オフィスGMT”がこのレンジの主流だった。2018年、チューダーのブラックベイ GMTが開拓して以降発展してきたミドルプライスのGMT市場において、100年以上前からロンジンのようにGMTウォッチを展開してきた歴史あるブランドのトラベラーGMTウォッチが手に入るというのはありがたいことだ(1908年にオスマン帝国向けに世界初のデュアルタイムゾーン懐中時計を、1925年には角型腕時計“ズールータイム”をリリースしている)。

なお、ローカルジャンピングGMTについて、HODINKEEではフライヤー(Flyer)GMTと表記することがある。実際に飛行機に乗って異国を行き来するジェットセッターにとって非常に重宝される機能であることから、そう呼ばれている。彼らはときに大きな荷物を抱えて、トランジットを含めて片道1日、いや2日はかかるような旅に出かける。その道中、体に密着している時計は1gでも軽いほうがいいだろう。12時間を超えるようなフライトは新婚旅行でスペインを訪れたとき以来経験していないが、そのとき手首にあったダイバーズウォッチを到着時にひどく重たく感じたことを今でも覚えている。この日は撮影を含めて3時間ほど着用しただけだったが、そのあいだ手首の上でわずらわしさを感じることは一度もなかった。

今回、もっとも気に入ったのはダイヤルデザインだ。すでにZulu Timeを持っているなら手元で見比べて欲しいが、いくつかの要素が省略され、非常にすっきりとまとまっていることがわかると思う。例えば、“LONGINES”の文字下にあった両翼の砂時計のロゴ。ブランドの創業時から使用されている由緒と歴史のあるものであり、これがダイヤルにあるとどこかエレガントさと気品が漂う。だが、ヘリテージ アヴィゲーションシリーズや、一部のヘリテージ クラシックでは省略されていることが多い。僕が持っているアヴィゲーション ビッグアイも12時位置には“LONGINES”とそっけなくプリントされているだけなのだが、このほうが古きよき時代のパイロットウォッチといった趣が強まるように思える。また、今作ではロンジン ヘリテージコレクションに共通していた6時位置の5つ星も省略され、デイトは6時位置から3時に移動してインデックスに溶け込むようなカラーリングが施された。アンスラサイトの控えめなダイヤルはマットな質感のチタンベゼルと相性がよく、総じて現代的なスポーツウォッチに見られるギラつきや主張を抑えたクラシカルな顔立ちに仕上がっている。ミッドセンチュリー特有のさりげない美しさを目指したとローンチ時の記事にも書かれているが、確かにどんな手首にも自然に馴染む、トレンドに左右されない飽きのこないデザインだと思う。

リューズの砂時計ロゴはそのまま残されていて、シンプルなサイドビューのアクセントとして機能している。ソリッドケースバックで“ZULU TIME”の文字があった場所には“HODINKEE LIMITED EDITION”と刻印が施され、ロゴを挟んだ下部にはシリアルの表記もある。また、ブレスレットはインターチェンジャブルシステムを採用しており、工具を使わずに簡単に着脱が可能だ。

シチズン プロマスターより、ブランド初となる機械式GMTウォッチが登場。

プロマスターらしい頑強なパッケージにタフネスあふれるスペックを搭載した、パフォーマンスに優れるFlyer GMTウォッチが登場した。

シチズン プロマスターは1989年の登場以来、陸・海・空の分野で活躍するプロフェッショナルたちに向け、高い耐久性と卓越した機能性を有するアクティブな時計を作り続けてきたブランドだ。ダイヤルやリューズに施された矢印型のアイコンはより高い空の上、より深い海の底への挑戦を示すものであり、その意志は昨今のプロダクトに至るまで機能やスペックの面で徹底して反映されている。そんなシチズン プロマスターは2024年、生誕35周年を迎えた。そして記念すべき年の始まりを祝し、航空分野にフォーカスした“SKY”カテゴリに2本のニューモデルが投入される。それが、1月25日(木)に発売を控えたブランド初の機械式GMTウォッチ、メカニカル GMTだ。

プロパイロットの使用を視野に入れたSKYシリーズからは、これまでもワールドタイム機能を搭載したモデルが数多く輩出されてきた。だがそのなかに、4本目の針、すなわちGMT針をゼンマイの力で動かす古典的なGMTウォッチは見当たらず、例えば1994年にリリースされたナビホーク(SKYシリーズの記念すべき1本目だ)からしてすでに液晶とサブダイヤルを併用したデジタル制御のワールドタイマーを採用していた。あらかじめモジュールに登録されている都市の時刻をリューズとボタン操作で呼び出すことで、簡単に第二時間帯やUTC(協定世界時)を表示できる仕様だ。その後、2000年台には電波受信方式による調整を取り入れたモデルやGPS衛星電波時計搭載モデルなども続いたが、SKYシリーズとしては基本的に電子制御によるワールドタイム表示の形を取ってきた。

1994年のナビホーク。アナログ部とデジタル部の完全同期を図った多モーターコンビネーションウオッチ。UTC時刻のほか、アナログ部時刻、デジタル部時刻の3時刻同時表示が可能だった。

2016年のエコ・ドライブGPS衛星電波時計。GPS衛星電波時計、F900を搭載したモデルとして登場した。

まあこれは、プロマスターが高精度で高機能なプロフェッショナルツールにこだわってきたことの表れかもしれない。しかしブランド35周年にして、プロマスターは初めて機械式ムーブメントによって駆動する“Flyer”GMTウォッチを発表した。44.5mm径のソリッドなステンレススティール(SS)製ケースにグレーのメッキを施した固定式の24時間表示ベゼルが装着されていて、GMT針がこのベゼルを指し示すことで第二時間帯を知らせてくれる極めてアナログな時計だ。

フランジ部分は既存のSKYシリーズ同様に回転計算尺となっており、8時位置のリューズで操作することが可能だ。また、ベゼルの丸みを帯びた形状は航空機の機体をイメージしており、バンドのエンドピースに入れられた斜めのカットは翼断面に着想を得て空気の流れを表現したものだという。“プロマスター初の機械式GMT”という新たな取り組みを示す冠がついてはいるが、各ディテールはこの時計があくまでプロマスターのSKYシリーズに属するモデルであることを主張しているようにも見える。なお、ヘアライン仕上げを主体としたケースには要所にポリッシュによるミラー仕上げが施されており、全体のルックスにメリハリと高級感を生み出している。

防水性能は20気圧。搭載しているムーブメントはCal.9054で、最長約50時間のパワーリザーブと第2種耐磁を備えている。なお、今回のリリースでは、ベゼルのみにメッキを施したSSモデル Ref.NB6046-59Eと、ブレスを含めて全体にメッキを施したNB6045-51Hの2型が用意された。価格は前者が13万2000円(税込)、後者が13万7500円(税込)となっている。

ファースト・インプレッション
シチズンは同社のなかでも特に機械式時計に注力するブランドであるシリーズエイトから、2023年にFlyer GMT機能を搭載する880 メカニカルを22万円(税込)という価格でリリースした。2017年のチューダー ブラックベイ GMTの登場以来続いているFlyer GMT民主化の流れに、シチズンも合流した形だ(880 メカニカルについては、僕が去年、ジェームズが今年Hands-On記事を書いている。チェックして欲しい)。そして今回発売されるシチズン プロマスターのメカニカル GMTは、プロマスター SKYシリーズの正統進化というよりも、880 メカニカルに搭載されていたCal.9054を用いながら無骨なパイロットウォッチのパッケージで再構築したものだと僕は捉えている。

2003年のプロマスター エコ・ドライブ電波時計。

強いて言えば、メカニカル GMTは2003年にリリースされたプロマスター エコ・ドライブ電波時計を思い起こさせるデザインとなっている。針とインデックスの組み合わせにインナーベゼルの回転計算尺、リューズのローレット加工や特徴的なカッティングが入ったエンドピースなど、共通点は多い。だが、シチズンからのリリースには該当モデルの復刻やオマージュを匂わせる内容は一切見受けられない。直近のSKYシリーズを見てみても、デジアナ表示に43都市のワールドタイムを搭載し、それらをエコ・ドライブ光発電によって駆動させるハイスペックなモデルが目立っている。メカニカル GMTのデザインは、昨今の流れからするといささか唐突に見える。今作においてはプロマスター SKYシリーズのデザイン文脈を踏襲し、パイロットウォッチとしての“らしさ”を追求した結果、2003年のモデルに近いデザインに帰着したのではないかと考えている。

どちらかというとメカニカル GMTは、880 メカニカルに続く機械式GMTウォッチカテゴリの拡充に投じた一石としての意味合いが強いように思う。ムーブメントはそのままに、デザインの方向性や価格帯までも調整し、異なる層にアプローチをかけたというわけだ。880 メカニカルで特徴的だった情緒的な文字盤のあしらい(東京の夜景を表現したロマンチックなものだった)やツートンベゼルはその面影もなく、カラーと装飾を抑えたマッシブなデザインに終始している。

個人的には、この選択肢は非常に魅力的だと感じている。シチズンのFlyer GMTに価値を見出しつつも、880 メカニカルのコンセプチュアルなルックスがマッチしなかった人もいたのではないかと思っていた。(わかりやすいツールウォッチが好き、という僕の好みは置いておいても)シンプルなダイヤルデザインは、万人に受け入れられる受け皿として確実だ。また、税込で14万円を切る価格帯も注目すべきだろう。もちろんシリーズエイトは金属の表面仕上げに定評があるブランドではあるし、メカニカル GMTは固定式ベゼルのために第三時間帯まで表示できないといったデメリットもあるが、これまでFlyer GMTのベンチマークにされがちであったミドーのオーシャンスター GMTを大きく下回るプライスだ。GMTウォッチに求めるスペックが明確なら、メカニカル GMTは有力な候補となる。

ちなみに、個人的にはブレスまでブラックメッキで統一したRef.NB6045-51Hを推したい。リリースの画像では、サンレイダイヤルは控えめなグレーに見えるし、ダイヤル上の“GMT”表記やGMT針も全体に馴染むようモノトーンに抑えられている。まだGMT針の視認性にありがたみをおぼえるくらい旅をしていないからかもしれないが、視認性を重視する既存のSKYシリーズには見られないこのアプローチはかえって新鮮に映った。実際の色味がどうか、というところは実機で確認をしてみたい。

懸念すべきポイントがないわけではない。SKYシリーズとしては当たり前の寸法だが、直径44.5mmをどう捉えるかはあると思う。参考までに、ムーブメントを同じくする880 メカニカルは両回転式ベゼルを備えて直径41mmに収めていた(もちろん、880 メカニカルは10気圧防水でメカニカル GMTは20気圧防水と、ケースサイズはスペックにも反映されているのだが)。比較的小径が求められる昨今において、往年のパネライに迫るようなサイズ感は手首の上でどのように感じられるのだろう。写真を見た限りだがラグは短めに取られているし、厚みも12.7mmと少し控えめだ。より幅広い層に受け入れられる14万円以下のFlyer GMTにおいて、このサイズがどう影響するかは、タイミングがあれば追ってお伝えしたい。

基本情報
ブランド: シチズン プロマスター(CITIZEN PROMASTER)
モデル名: メカニカル GMT
型番:NB6046-59E、NB6045-51H

直径: 44.5mm
厚さ: 12.7mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ブラック
インデックス: アプライド
夜光: 時分針、GMT針、インデックス
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット: ステンレススティール

ケースバックには空のプロフェッショナルに向けて作られたことを主張する、パイロット用ヘルメットのイラストを刻印。

ムーブメント情報
キャリバー: 9054
機能: 時・分・秒表示、3時位置にデイト表示、GMT針による第二時間帯表示
パワーリザーブ: 約50時間(最大巻上げ時)
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 24

価格 & 発売時期
価格: 税込13万2000円(NB6046-59E)、税込13万7500円(NB6045-51H)