ピクセルが鮮烈な印象を与えるシャネル J12 サイバネティック。

J12 パラドックスが発表されてから3年の月日が経った。ということは、私がその時計にひと目惚れしてからそれくらい経過したということでもある。パラドックスという単語は、間違っているように感じながらも実は正しいという意味であり、同モデルもその名のとおりひと目見ただけだとこれは本当に合ってるの? と自分に問いかけてしまうほど、非常にユニークな見た目をしている。

そしてJ12 パラドックスを知っている人であれば、2023年の新作として発表されたJ12 サイバネティックがそのDNAを色濃く受け継いでいることはすぐにわかるはず。定番モデルのJ12 パラドックスと異なり数量限定品ではあるが、今回は運よく実機を借りれる機会を得たためレビューをお届けしていきたい。

まずはJ12 サイバネティックについて簡単に紹介を。この時計はケース直径が38mm、厚みが約12.6mm、防水性能は50mと、スペックだけを見るとなんてことない時計だ。ただやはり注目すべきはその見た目にある。ブラックラッカーをベースに、マットホワイトのピクセルが“侵略”してきているかのような見た目を持つ文字盤に、階段状にカットされたピクセルケース、そしてピクセル形状のデザインが配されたブラックとホワイトカラーのサファイアクリスタルベゼルを備えている。これぞまさに真のアシンメトリーウォッチだと主張するかのように、時計の右半分と左半分でまったく異なる見た目になっている。

ケースの製造方法はJ12 パラドックスと同じ。形状が異なるブラックとホワイトの2つの高耐性セラミックケースを薄いブレードでカッティングし組み合わせて、裏蓋側から4つのネジで固定するという斬新な製法だ。とても簡単に書いてしまったが、セラミックは非常に硬い素材だし、これをいざ実現するとなると大変高度な加工技術が必要になる。

またシャネルはJ12 サイバネティックが属する“シャネル インターステラー カプセル コレクション”について、SF(サイエンスフィクション)の世界、宇宙、タイムトラベルからインスピレーションを得たとしている。そしてデジタルの世界において代表的なモチーフであるピクセルを、J12のデザインにうまく落とし込んでいるのが本作だ。針で時刻を示すアナログ時計を、デジタルの象徴のようなピクセルが切り込んで侵略しているような感覚に陥った。そんなシャネルの作品・感性はとても素晴らしいものだと思う。

冒頭で触れたひと目惚れの話を少ししよう。私は黒い服が好きだ。でも財布などの小物は、黒が持つ静けさとは真逆の少し奇をてらったものや、派手な色・デザインにしたいというスタイルを大事にしている。そんな私がJ12 パラドックスを見たとき、白をベースに黒を少し塗り分けたその見た目が、自分の姿と重なったのだ。私は3年前にひと目見ただけで、J12をとても気に入った。もちろん、その系譜を受け継いだJ12 サイバネティックのデザインも大好きだ(階段状のピクセルケースがさらにギャップ満載だしね)。

自分がいかにツートンのJ12が好きかという話はこれくらいにして、J12 サイバネティックについてのレビューをしていこう。

さまざまな角度から見てわかる粋なクリエイション

まずはデザインについて。これはケースの右側だけがホワイトというスタイルで、そのホワイトのほうは滑らかなケースシェイプではなく階段状にカット。この形状にするのは多分(いや絶対)簡単なことではないだろうし、その階段状のエッジ部分を触ってみた感触も、セラミック特有のツルツルとした触り心地のままで指先に痛みは感じなかった。よく磨かれていることがわかる。

また正面から見るとわからないが、ただ階段状にカットしているのではなく、ピクセルのひとつひとつがブレス側に向かって絞られ、台形になっているのだ。触り心地のよさの秘密はここにあると感じる。こちらのシェイプに関しては、シャネル公式サイトの3Dシステムで見るとさらにわかりやすいため、ぜひいちど見て欲しい。

文字盤の1時~5時までのアラビア数字インデックスがない(それとJ12 パラドックスの4時半位置には日付があったが、これらはピクセルによって侵略されてしまったのだろうか?)。だから初めて写真を見たとき、この時間帯はわかりにくいのかなと思ったが、いざ実機を見てみると、なるほど、すり鉢状の細いインナーリングにホワイトのミニッツマーカーが施されていたため視認性に問題はなかった。

またマットホワイトのピクセルがアプライドしたインデックスのように少し盛り上がっているのも特徴。少しおもしろくて大胆だなと感じたのは、若干窪みが設けられた文字盤の内側にあるミニッツトラックの上にピクセルが乗っかっていて、隙間ができているのだ。横から見てみるとこのおもしろさに気付くはず。こんなデザイン、いままで見たことあるだろうか?

J12 パラドックスのサファイアクリスタルベゼルは、ブラックを施したあとにホワイトを重ねて製造していたが、J12 サイバネティックも製造方法は同様なのだろう。ただし、単にツートンに塗るのではなく、丸みを帯びたベゼルに対してきちんとキレイな正方形のピクセルをプリントしている点に注目だ。

ちなみにバックルについて、J12 パラドックスの記事でも取り上げているため簡単に触れておくと、シャネルが特許を取得しているシンプルなフォールディングバックルは、女性にとって大変うれしいディテールだ。なぜかというと、このバックルには硬めのバネが搭載されていて、ブレスのコマを少し摘むだけで爪を傷めずに簡単に時計の着脱ができるからだ。

キャリバーはほかの38mmのJ12と同じく、Cal. 12.1を搭載。製造しているムーブメントメーカーはみなさまご存じのとおり、ロレックスの兄弟会社であるチューダーが設立したムーブメント製造会社、ケニッシ社が手掛けており(なおシャネルは同社の株式を保有している)、半円形のローターの真ん中が丸い形にくり抜かれているのが特徴だ。ローターがムーブメントの美観を邪魔しない仕様により、全体の動きをより広く鑑賞できる。

パワーリザーブは約70時間、COSC認定済みと十分なスペックを確保。個人的にはJ12 パラドックスと比べて日付表示がなくなっているのが気になるが、まあほかにも日付がないJ12があるためそこまで気にしないことにした。仕事柄1日に1回は日付を確認しているため、私はデイトの付いた時計は大歓迎なのだ。

私の手首は女性の平均よりだいぶ細く、大抵の時計はラグが腕の幅より出てしまうし、メンズモデルをつけるなんてもってのほかだ。時計のエディターとしてどうなの、という感じだがしょうがない。だからこそ私が快適につけられる時計の選択肢はだいぶ狭い。

だけどやっぱり、時計はデザインで選びたい。大きかろうが重かろうが、デザインが好きならその時計をつけたい。J12 サイバネティックはそんな気持ちにさせてくれる。実際につけてみると、ほぼセラミックでできているぶんやや重みを感じるし、私の腕だと1日中つけていられなかったが、見た目がかわいいからいいのだ。時計を途中で変えて、また明日つけて楽しめばいい。

ただもしシャネルの人たちに届くのなら書いておこう。もう数ミリダウンサイズした、ワントーンでもクォーツでもないJ12を出して! もしそんなモデルが出たら、私は絶対に手に入れると誓う。

時計に詳しくない人(そしてそうではない人も)が、ケースの片側だけカクカクしているこのモデルを見たら二度見してしまうはず。そしてまじまじとそれを見つめていたら、もうその人は私のようにJ12 サイバネティックの虜になっているだろう。

次にシャネルはどんなデザインのJ12を仕掛けてくるのか。ピクセルで来たから次はトライアングルとか? 予想するだけでも楽しい。今回は限定生産品だったが、やはりそうではなく、次回はJ12 パラドックスのようにレギュラーで展開して欲しいところ。それもダウンサイズしてね。

シャネル J12 サイバネティック。Ref.H7988。高耐性セラミックケース、50m防水、直径38mm、シースルーバック。ブラックラッカー、マットホワイトのピクセルモチーフダイヤル、アプライドのアラビア数字インデックス、スーパールミノバ。ムーブメントはCal. 12.1、パワーリザーブ約70時間。高耐性ブラックセラミックブレスレット、SS製3重折りたたみ式バックル。201万3000円(税込)、数量限定、発売中。

ジラール・ペルゴ ロレアート グリーンセラミック アストンマーティン エディション 38mmでグリーン。

これはフルセラミック製で、クルマにインスパイアされた時計だ。

時計とクルマへの情熱の融合はなにも目新しいものではない。これらの共通の利益は常に交差している。ロレックスのデイトナであれ、ホイヤーのカレラであれ、さらにはポルシェデザインであれ、すべてそこにあるのだ。このふたつの分野が歴史、クラフトマンシップ、パフォーマンスといったアイデアを融合させる。単独でもストーリーテリングにうってつけだが、一緒になればなおさらいい。

2021年、ジラール・ペルゴとアストンマーティンは婚約を結び、ふたつの歴史あるブランドがさまざまなアイテムでコラボレーションできるようになった。そして今年初め、彼らはモーターヘッドたちのあいだでよく知られるブリティッシュレーシンググリーンでできた特別なロレアート(GPを象徴する一体型スポーツウォッチ)を発表した。

ジラール・ペルゴ ロレアート 38mm グリーンセラミック アストンマーティン エディション
少なくとも現代の背景では、クルマとコラボレーションした時計はやや強引であることが多い。燃料計のように見えるダイヤルやクルマを想起させるようなデザインヒントがあるものは、同じように現代的な自動車デザインを連想させることを意図していると考えておいて欲しい。そんななかアストンとGPは今回のリリースで、はるかにシンプルな方法を採用した。

“破綻していないのであれば直さない”という時計デザインの力強さを理解したうえで、GPのロレアートをベースに42mmと38mmという2サイズの時計をつくるという選択をした。今回は38mmモデルに注目しよう。というのも、それが本当に魅力的な時計で、同じようにサイズ感もいい感じだからだ。それになにより…緑一色なのだ。

ジラール・ペルゴ ロレアート 38mm グリーンセラミック アストンマーティン エディションのリストショット
それこそが、この時計の際立った特徴だ。私にはこれがブリティッシュレーシンググリーンだとは思えないが、この配色を選択した背景には、このグリーンのインスピレーションがあったのだろう。そのポイントをしっかりと強調するためには、ホワイトのストライプの要素が足りないと思う。結局のところ、この時計が優れているのはモダンとクラシックが融合しているというところだ。最も注目すべきモダンな要素は、時計全体、すなわちケースとブレスレットにセラミックを使用していることである。この特殊なセラミックはジルコニウムと金属酸化物から組成されており、サテン仕上げとポリッシュ仕上げの組み合わせが可能だ。

文字盤はケースやブレスレットと同じグリーン。クルマのグリルを連想させる、独特のクロスハッチパターンを施しているが、実機を見ているぶんには気にならない。実際に光が当たると、グリーンの海のなかで欠けていた視覚的な魅力がいっそう増す。時、分、センターセコンド、日付(3時位置)機能を備えており、全体的なダイヤルレイアウトはシンプルだ。12時位置にはアプライドされたGPロゴがあり、6時位置の近くにはLAUREATOとAUTOMATICからなる2行のテキストがある。後者はセリフの多い70年代風の独特なフォントで、新旧モチーフの架け橋となっている。

ジラール・ペルゴ ロレアート 38mm グリーンセラミック アストンマーティン エディション

グリーンに使用されているセラミックは、スティール製の時計よりも7倍の硬度を誇り、傷にも強い。グリーンの時計を裏返すと、アストンマーティンのブランドロゴが施されたシースルーバックが現れる。そのブランドロゴの後ろには、約46時間パワーリザーブを誇る自社製Cal.GP03300が搭載されている(ちなみに42mmバージョンはCal.GP01800を採用しており、パワーリザーブは約54時間)。

ブレスレット一体型のスポーツウォッチの海のなかで、単調さを打破するためにクルマ(のインスピレーション)が必要になることもある。私の手首サイズは6.5インチ(約16.5cm)弱であり、こちらの38mmバージョンに心引かれる。腕にはめてみると、1975年から続くロレアートの歴史が実感できた。当時のフォントや八角形ケースのような華やかさ、さらに特徴的なグリーンセラミックなどの装飾が相まって、“全体は部分の総和に勝る”という考え方に基づいた時計であることを感じさせてくれる。

ジラール・ペルゴ ロレアート 38mm グリーンセラミック アストンマーティン エディションのリストショット
この時計につけられた327万8000円(税込)という値札を見て、パンチが効いていると捉える人もいるだろう。ただ、このジャンルで似たようなスタイルを手掛ける多くのライバルと比較しても、妥当な価格であることは間違いなく、ムーブメントと素材の革新性の両方がそれを裏付けている。この時計が内外に提供しているすべての事象を考えると、私はこのパートナーシップに今後も注目していくことだろう。

ジラール・ペルゴ ロレアート 38mm グリーンセラミック アストンマーティン エディション。直径38mm、厚さ10.27mm、100m防水。グリーンセラミック製ケース&ブレスレット、無反射サファイアクリスタル、クロスハッチパターンのサンレイ仕上げグリーン文字盤、グリーン夜光。Cal.GP03300、時・分・センターセコンド、日付表示、約46時間パワーリザーブ、27石、2万8800振動/時。価格は327万8000円(税込)。

チューダー ブラックベイ フィフティ-エイトを紹介しよう。

現代における全ツールウォッチに対して私が抱いていた印象を一変させた時計、チューダー ブラックベイ フィフティ-エイトを紹介しよう(重要な補足として、この記事の撮影はBB54が発表される前に行われたものであり、それも私を夢中にさせたものだ)。

正確にはこの時計はスモールサイズではないのだが、私の主張を通すためにこれを“スモール/ミディアム”と呼ぶことにする。直径39mm、厚さ11.9mmというプロフィールに、そのすべてが詰まっている。無駄がなく、しかしこの上なくスポーティであり、現代のツールウォッチの枠組みにおいて驚くほど表現しにくい要素を兼ね備えている。

なぜこの時計が優れた時計として私の目に留まるのか? 聞いて欲しいのだが、私はチューダーのようなモダンなものを賞賛することはおろか、身につけることなど考えたこともなかった時計愛好家であるが、イエローゴールドに軽い優越感を持ちながらもこのツールウォッチの仲間入りを(盲目的に)果たした(この文章で混乱させて申し訳ない。真意を理解して欲しいが、99%の時計ブランドは女性に話しかけるのが下手なのだ)。実際、私が時計の世界に深く足を踏み入れる前に、このブランドをどう思うかと聞かれたら、おそらく“チューダーね。それはいいからロレックスをちょうだい”と嘲笑しただろう。

この時計がリリースされた2018年まで巻き戻すと、当時のダイバーズウォッチはケースサイズが大きくなりがちであったが、BB58はそれに逆行するサイズだった。そしてチューダーの歴史的モデル、Ref.7922 サブマリーナーを踏襲しながらも、現代的な素材と自社製Cal.MT5402を搭載した、ヴィンテージ風ウォッチという一面も持っていた。

BB58には、スポーツウォッチにありがちな頭でっかちな雰囲気がない(それに先立ったオリジナルのブラックベイ 41mmも含んで)。不格好な時計は、直径がどうであれ、私のような程い手首にはほとんど役に立たない。BB58は決して小さいわけではなく、ヴィンテージの基準からしても小振りではないが、バランスはよくてすっきりとしている(っぽい)。

個人的なツールウォッチの選び方に関して、私は現代的なものに偏る傾向がある。忘れちゃいけないのは、私はまだツールウォッチを使い始めたばかりなので、あとに何が起こるか誰にもわからないということだ。BB58は多用途で、耐久性に優れている点が気に入っている。むしろ、あまり大事に扱わないほうがカッコよく見える。ライダースジャケットや(リーバイスの)501のように、使い込んで自分のものにするのがいい。

価格はもうひとつのボーナスだ。この価格帯のモダンな時計は、いま欲しい時計のカテゴリーに入ることはあまりない。でも決して50万4900円(税込)が安いと言っているわけではない。とはいえ、私はYGやジュエリーのようなデザインに引かれるので、当然、欲しいものがすぐ手に入るとは限らない。Googleによると、これは私をシバライト(贅沢にふける人)にしているそうだ。ただ単に私のセンスがいいということだと思うのだが。結果はまだでていない。

ありがたいことに、私は伝統的な時計趣味に縛られていないので、少し違うレンズを通してBB58を見ることができる。機能性ではなく見た目のために実用に富んだ時計を身につけるというアイデアが大好きだ。ピンクゴールドの金メッキは私の好みにはちょっと合わないかもしれないが(この間にBB54が登場したが、これは完璧だ)、マットで日付のない文字盤というこの時計が持つ純粋さはとても気に入っている。それとブレスレットにした方が100%いい。

とても完璧に近いヴィンテージのディテールにより、BB58は、デザイン的には洗練されているがスポーティな雰囲気を醸している。すべてのヴィンテージマニアのために、知る人ぞ知る小さなディテールが取り入れられているのだ。ディテール(例えば12時位置の赤い三角形、ケースのハッシュマークや太い面取りなど)は、製品をより技術的にではなく上品なものにしてくれる。私はこれまでの人生で、合計4回ほどベゼルを回転させたことがある。だから私は、潜水するときのタイミングを計るのではなく、これがどう見えるかに注意を払っている。だって正直言って、この時計を買う人がダイビングのタイミングを計っているとは思えない。

39mmという直径は、私が求めるサイズより少しデカいかもしれないが、もう少し重厚で存在感のある手首を好む女性にはぴったりだろう。

これは極端な事象を好む女性たちのためのものだ。よきスモール/ミディアムライフを。

ルック1: マッチポイント
私はジムの外でテックウェアを着ている女性に強い魅力を感じる。ナイキ Dri-FITのトップス、アローのヨガレギンス、ホカのスニーカーなど、彼女らがマンハッタンのアップタウン通りを練り歩く姿を目にする。間違いなくそれがユニフォームだ。

個人的に、アスレジャー(スポーツウェアを普段着などに取り入れること)を着るのは大嫌いだ。本当に嫌いなんだ。ナイキのGyakusouトラックパンツに、セリーヌ バイ エディ・スリマンのツイードジャケットをミックスする以外、どうか私に近づかないでほしい。でもマーティン・ローズ×ナイキは、ストーリーを見失ったと感じる前に自分でできる範囲だ。

いつものことだが、私はスポーティな時計が好きなので矛盾に満ちている。BB58はスポーティだが、スポーティさとエレガントさを兼ね備えている。カントリークラブのスポーティさとか、芝生のクロケットのスポーティさとか、トライアスロンのようなスポーティさではない。

プレッピースポーツウェアは、それ自体がひとつのカテゴリーだ。そしてポロシャツは、世界中のだれもが認めるプレッピーのエンブレムである。もしあなたが2000年代の子どもだったとしたら、ラコステのポロが引き起こしたノスタルジックな要素は間違いなく計り知れない。

ただし、これは『The O.C.』でマリッサ・クーパー(Marissa Cooper)が着用していたラコステのポロではない。2004年のY2Kパステルとポップカラーのポロシャツによるレイヤードスタイルからはほど遠い。それらはきつくてピチピチな、ティーンエイジャー向けのものだった。これはミュウミュウのFW22にインスパイアされたプレッピーバージョンだ。BB58をつけるように、少しルーズに、少しバギーに、そして少し無造作に着るのだ。

カルティエのヴィンテージ タンク サントレが物語る修復の未来。

1920年から1960年までカルティエが生産した腕時計は1万5000本にも満たない。ちなみに1905年に創業したロレックスが100万本目の時計を製造したのは1960年頃で、同時期のパテックの生産本数は50万本程度と推定されている。

そのため、ヴィンテージのカルティエウォッチは希少である。本当に珍しいのだ。この話を持ち出したのは、今春のオークションシーズンでカルティエのヴィンテージウォッチがあまり出品されない、ちょっとしたオフシーズンだったという話が上がったからだ。そのなかでも特筆すべきロットは、1920年代製のプラチナ タンク サントレである。私はオークションプレビューの際、この実物のサントレを見てもピンと来なかったと書いた。ただ市場は私の考えをまったく気にしていない。この時計はクリスティーズで4万スイスフラン(日本円で約653万8000円)というエスティメートだったにもかかわらず、30万2400スイスフラン(日本円で約4585万円)で落札されたのだ。それ以来、世界有数のディーラーのうちのひとりが、この時計を“オークションシーズン最高のトロフィー”と称していた。

ヴィンテージのプラチナ カルティエ タンク
5月のクリスティーズにて、35万ドル以上で落札されたプラチナのカルティエ タンク サントレ。

この重要な結果は、私の見解がみるからに間違っていたことを示唆していたということだ。それを認めることになんら問題はない。ところで私はこのタンク サントレについて、そして今日の時計収集における希少性と復元の意味について、もう少し掘り下げてみる価値があると考えた。

オークション前に説明したように、このサントレの文字盤は1999年にカルティエによって修復されたものである。オークションカタログのサムネイル画像を見て、最初は現代のカルティエだと思ったほど(の修復)だ。文字盤はバーティカルサテン仕上げを施したシルバーという非常にモダンなデザインで、20年代製のヴィンテージカルティエの文字盤にこのようなものはなかった。この時代の代表的な文字盤はオフホワイトであり、しばしば美しいパーチメント(薄茶色)カラーに経年変化していくようだ(100周年記念のタンク サントレはこれを再現している)。その上、このプラチナ製サントレのケースは、すべてサテン仕上げを施していた。ほとんどのヴィンテージサントレでは、細長いブランカード(担架のように見えるケースシェイプ)がポリッシュ仕上げされているのがわかるが、この仕上げは現代の限定版サントレでも再現されている。こうしてカルティエが修復のために預かったサントレは、1926年製でありながら1999年製の時計のように見えるように仕上がったのである。

100周年記念のタンク サントレ

しかし、1920年から1960年までのカルティエ タンクの生産本数は2000本にも満たない。そしてそのなかで最も望まれているのは、現代のコレクターの好みに合った大きくて薄く、細長い形状のタンク サントレだ。これらはドレスウォッチで水に強いとは言えなかったため、ほとんどの文字盤はひどく損傷しているか、時間の経過とともに失われているものばかり。その希少性に加えて、この特別な個体は元の所有者の家族からの出品であり、1926年(この年にカルティエが製造したタンクはわずか135本だった)に委託者の叔父から譲り受けたものであった。以前にも述べたように、最近のコレクターはどんな属性よりも“市場に出たばかり”かを重要視している。だからこそ、私やほかの人がモダンなデザインの復元をどう思ったかにかかわらず、35万ドルで落札されたのだ。

確かにヴィンテージのロレックスやオメガ、あるいはパテック フィリップを評価する際にはコンディションが最も重要なポイントかもしれないが、それらの時計は何十万という玉数があることを忘れてはならない。一方カルティエは、60年頃までは年に数百本しか腕時計を製造していなかった。つまりカルティエの時計はどれもが希少ということになる。コンディションはそれほど問題ではなく、復元がどれだけ忠実かどうかもそれほど重要ではない。要は希少性なのだ。

“忠実な復元”について意見を述べる
フレッド・アステアのカルティエ タンク サントレ
その席には、俳優のフレッド・アステア(Fred Astaire)が友人のフェリックス・リーチ・ジュニア(Felix Leach Jr.)にプレゼントしたタンク サントレも姿を見せた。過去数十年のある段階で、カルティエはこの時計を入手し、最終的に修復を施した。これは80年代のオークションカタログに文字盤が損傷した状態で初めて掲載されていることからわかる。しかしリーチ・ジュニアのサントレの修復はオリジナルに忠実であり、ホワイトダイヤル、特徴的なインデックス、ポリッシュ仕上げのケースサイドなどすべて保たれていた。

ホワイトゴールドの、非常によく似たタンク サントレが2021年11月のフィリップスオークションに登場し、約29万ドル(日本円で約3182万8000円)で販売された。オークションに出品される前、この時計はカルティエが2年間にわたって復元を行い、オリジナルに忠実な形で再生を遂げた。その時計は、ある日本の著名なカルティエコレクターから譲り受けたもので、彼は当時私に連絡を取ってくれて、修復前の写真を見せてくれた。そこには100年ものあいだ、風雨や水の浸入、その他あらゆるもので摩耗された文字盤が写っていた。これらの2本のヴィンテージタンク サントレは、クリスティーズで販売されていたプラチナの個体よりも、時計本来の美観へと忠実な復元が施されているようだ。

ヴィンテージウォッチを愛する多くの人と同じように、私もコンディションとオリジナリティを大切にするように教えられてきた。ヴィンテージウォッチに魅力があるのはそのためであり、復元をすることでその美しさを奪ってしまう(と思う)のだ。しかし私たちが最近改めて思い知らされたように、修復は現代の時計収集のひとつの常識である。ここで話しているタンク サントレは100歳の誕生日を迎えようとしており、自然なままの状態やオリジナリティを完全に望むことはできない。特にカルティエのヴィンテージウォッチはすでに希少価値が高く、そのような期待を抱くことはディーラーやオークションハウスにとって逆のインセンティブを生む出す可能性がある。

ヴィンテージロレックスの場合、何十万本もの時計が生産されていたなかで(しかも実際には防水性にも優れていた)良好なコンディションを保った、日々出合える何十ものありふれた例から収集可能な個体を区別するものだ。ヴィンテージ カルティエの場合は、これに当てはまらない。

一方で、この例のように最近修復された時計がオークションで数十万ドルに達することを不思議に思う。なかには意図しない結果もあるかもしれない(これはどのようなコンディションのヴィンテージウォッチであっても購入し、 “忠実な修復”のためにメーカーに送り返すことを期待するインセンティブになるのではないだろうか?)。クライアントが新しい時計をカスタマイズする、カルティエのNSO(ニュー・スペシャル・オーダー)プログラムに似ていると感じるかもしれない。ここでいう“カスタマイズ”は、あくまでもオリジナルの時計をベースにしたものである。ロレックスやパテックなど、復元した時計を単に“手つかず”であるかのように見せかけられる、コンディション重視のコレクションで起こりうるものとは異なり、このようなメーカーの復元は容易にわかるというのがこれからコレクターになる人にとって朗報である。

一方で希少なものは希少のままで、20年代のタンク サントレほどレアなものはない。これらの時計があと100年存在し続けるには、そのほとんどに手を加える必要がある。私の意見は文字どおりオリジナルの時計の美しさを復元する、忠実なレストアの価値を認めるべきであり、代わりに現代の美的感覚や流行に合わせた自由な修復を避けるべきだということだけだ。これらの古い時計はヴィンテージを超えてアンティークになっていくにつれ、おそらくこれがオリジナルの魅力を維持する唯一の方法なのだろう。

ロレックスで一番安いモデルから、コストパフォーマンスに優れた人気モデルまでを詳しく紹介します。

ロレックスは定価改定や市場のニーズによって価格が大きく変動するため、一概にどのモデルが安いとは言い切れません。そのため、この記事では、腕時計のレンタルサービス「カリトケ」で安くレンタルできるモデルを基準に、ロレックスで安いモデルを紹介していきます。

ロレックスで一番安いモデルは「オイスターパーペチュアル (176200)」

ロレックスで最も安く取り扱われているモデルは、オイスターパーペチュアル (176200)です。シンプルな仕様でありながら、ロレックスの定番シリーズとしての風格を持っています。26mmのコンパクトなケースサイズが特徴で、女性の手首にも美しくフィットします。

可愛らしい配色を採用していながらも、無駄のないデザインはロレックスならではの持ち味といえるでしょう。小ぶりなサイズながらも確かな存在感を放ち、日常使いからフォーマルなシーンまで幅広く活躍してくれる1本です。

コストパフォーマンスに優れたロレックスのモデル
オイスターパーペチュアル以外にも、ロレックスには手の届きやすい価格帯でありながら、高い品質と魅力を兼ね備えたモデルが数多く存在します。続いて、コストパフォーマンスに優れたロレックスの代表的なモデルを紹介します。

エアキング (14000M)

エアキングは、ロレックスの中で最も古いペットネームを持つコレクションで、長い歴史を誇る名門シリーズです。その中でも、エアキング (14000M)は、シンプルなデザインと高級感が見事に調和したモデルで、飽きのこない洗練されたデザインが魅力です。

余計な装飾を省いたクリーンなデザインは、ビジネスシーンでの信頼感を演出してくれます。また、カジュアルなプライベートのお出かけにも自然に馴染むため、シーンを選ばず使いやすいでしょう。上品でありながら親しみやすい雰囲気を持つエアキングは、初めてロレックスを手にする人にもおすすめできるモデルです。

エアキング エンジンターンドベゼル (14010)

エアキング エンジンターンドベゼル (14010)は、スポーティーなデザインが魅力で、アクティブなライフスタイルを好む人におすすめのモデルです。エアキングらしいシンプルなデザインベースに、飛行機のエンジンをイメージした「エンジンターンドベゼル」が印象的なアクセントを加えています。

横から見るとベゼルの形が他のシリーズと明らかに異なるのがわかり、プロペラをモチーフにして斜めにカットされた独特の造形が目を引きます。スポーティーでありながら品格を失わない絶妙なバランスが最大の魅力といえるでしょう。

デイトジャスト (79174)

デイトジャストは、高い精度を誇る自動巻き「パーペチュアル」を搭載し、ロレックスの技術力の高さを実感できるモデルです。その中でも、デイトジャスト (79174)は、流行に左右されないタイムレスなデザインが特徴で、何年経っても色褪せることのない美しさを保ち続けます。

シンプルながら確かな存在感があるため、ロレックスファンの間で不動の人気を誇っています。フォーマルなビジネスシーンから、リラックスしたプライベートタイムまで、どんなシーンでも自然に馴染んでくれる懐の深さも魅力です。洗練されたデザインと確かな機能性を兼ね備えた、まさにロレックスらしい1本といえるでしょう。

オイスターパーペチュアル デイト (15200)

オイスターパーペチュアル デイト (15200)は、シンプルながら確かな存在感を放つデザインと、落ち着いたモノトーンのカラーリングが特徴のモデルです。デイトジャストと同様に、高い精度を誇る自動巻き「パーペチュアル」を搭載しています。

控えめでありながらも品格のある佇まいは、まさにロレックスの真骨頂といえます。日常的に身に着けていても飽きがこないデザインでありながら、特別な場面でもしっかりと存在感を発揮してくれます。機能性とデザイン性を高いレベルで両立させた傑作といえるでしょう。

オイスターパーペチュアル デイト エンジンターンドベゼル (15210)

オイスターパーペチュアル デイト エンジンターンドベゼル (15210)は、落ち着いた雰囲気の文字盤と、サイクロップレンズが搭載されたデイト表示が印象的なモデルです。

薄くてクラシカルなデザインは、スーツの袖口から覗かせても品よく決まり、上品に着用できます。エンジンターンドベゼルが加える繊細な装飾は、シンプルながらも洗練された美しさを演出します。控えめでありながらも確かな存在感を放ち、大人の男性にふさわしい1本として多くの支持を集めています。

ロレックスを安く手に入れる方法
憧れのロレックスを手に入れたいけれど、価格がネックになっている人も多いでしょう。実は、工夫次第でロレックスを比較的安く入手できる方法があります。ここでは、ロレックスを安く手に入れる方法を紹介します。

海外で購入する
海外の為替レートの影響や現地の税制の違いを活用して、お得にロレックスを手に入れられる可能性があります。特に以下の4か国は、比較的安く購入できる国として有名です。