グランドセイコーは本年最初のリリースのひとつとして、新作SLGH027を発表した。

これは、40mm × 11.7mmのエバーブリリアントスチール製ケースにブレスレットを組み合わせたモデルで、ブランドの約80時間パワーリザーブを誇る9SA5ハイビートムーブメントを搭載している。この時計にはグランドセイコー デュアルインパルス脱進機が採用されており、スイスレバー脱進機ではない量産型脱進機としては、コーアクシャル脱進機に次ぐ2例目となる。しかしながら、この時計の真の魅力は、いかにもグランドセイコーらしいダイヤルにある。

グランドセイコーはこれまで幾度となく(少なくとも2006年以降)、機械式時計のデザインにおいて、日本の活火山のひとつである岩手山からインスピレーションを得てきた。今回も例に漏れず、火山の稜線や、空から見た山の姿など空気と水が織りなす情景をモチーフとしている。

ケースはエボリューション9スタイルに属し、ザラツ研磨による美しい仕上げが施されているほか、視認性を高めるために力強い溝入りの時・分針とインデックスを備えている。時計にはエバーブリリアントスチール製のブレスレットを組み合わせており、この素材は高い耐食性を持つ。さらに精巧に磨き上げられたヘアライン加工がダイヤルの明るい色調と絶妙に調和している。

同ムーブメントはツインバレル式で、約80時間のパワーリザーブを実現している。ただしこの時計を手に入れたいなら、80時間以上は待つことになりそうだ。発売は5月を予定しており、1200本限定(うち国内700本)だ。価格は146万3000円(税込)となっている。

我々の考え
冬の情景を思わせるダイヤルトーンと、ハイポリッシュされたケースやブレスレットとのコントラストが新作の魅力なのだろう。ただ個人的には、ダイヤル中央から放射状に広がるこの稜線模様に強く引きつけられる。過去のモデルを思い起こさせるこのデザインは、サンバーストのように力強く広がり、荒々しさと精巧な磨き上げが融合し、両者の美点を兼ね備えている。

少し高い価格だと感じられるなら、それはこの時計が約80時間パワーリザーブを備えたハイビート自動巻きムーブメントを搭載しているからだ。これはグランドセイコーの機械式ハイビートムーブメントでも最高峰に位置する。確かに近年はどのブランドも価格がじわじわと上昇している。

とはいえSLGH019(ブライトチタン製)も同価格で、さらにSLGH009(エバーブリリアントスチール製、550本限定)も同じ価格設定だったことを考えると、グランドセイコーとしては妥当な価格と言えるだろう。

SLGH027
基本情報
ブランド: グランドセイコー(Grand Seiko)
モデル名: エボリューション9コレクション(Evolution 9 Collection)
型番: SLGH027

直径: 40mm
厚さ: 11.7mm
ケース素材: エバーブリリアントスチール
文字盤: 放射状パターンのライトブルー
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: エバーブリリアントスチールブレスレット、ワンプッシュ式3つ折れクラスプ(クラスプの一部に18Kローズゴールドとチタンを使用)

SLGH027
ムーブメント情報
キャリバー: 9SA5
機能: 時・分表示、センターセコンド、日付表示
パワーリザーブ: 約80時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時
石数: 47石
クロノメーター: なし(日差+5〜-3秒)
追加情報: スクリューバック(シースルー)

価格 & 発売時期
価格: 146万3000円(税込)
発売時期: 2025年5月10日発売予定
限定: あり、世界限定1200本(うち国内700本)

H.モーザー パイオニア・トゥールビヨン バーガンディが登場

日常使いに適したトゥールビヨンを展開するブランドは決して多くないが、そのなかでもH.モーザーはそうしたモデルを継続的に発表し続けている。今回、モーザーは最も実用的なトゥールビヨンモデルである40mm径のパイオニア・トゥールビヨン バーガンディをアップデートした。

このモデルの見どころは、何といってもバーガンディのフュメダイヤルだ。サンバースト仕上げが施されたダイヤルは、ベゼルに向かってブラックへとグラデーションを描く。ダイヤル外周にはレッドゴールド製のアプライドインデックスが配され、視認性を確保するために見返しにはスーパールミノヴァ®を用いた時刻表示が施されている。そしてもちろん、モーザーのクラシックなデザインを象徴するリーフ針も健在で、こちらにもスーパールミノヴァ®が塗布されている。トゥールビヨンの開口部は非常に目を引くもので、このモデルの主役として位置づけられている。その存在感を際立たせるため、ブランドロゴは極めて控えめな表現として光が当たったときにのみ見える透明ラッカー仕上げが施された。

パイオニアのケースはそもそも比較的コンパクトだが、短めのラグもあって手首の上での収まりは良好だ。このモデルは5N レッドゴールド製ケースにバーガンディダイヤルを合わせた仕様であり、蛇のモチーフは見当たらないが旧正月を意識したカラーリングであることは間違いないだろう。ドーム型のサファイアクリスタルを備えたケースの厚さは12mmだが、ブランドによるとケース自体の厚さは10.4mmに抑えられているという。以前ステンレススティール製でブルーのパイオニア・トゥールビヨンを試したことがあるが、細めの手首にもよくフィットするつけ心地だった。サイン入りのねじ込み式リューズを採用し、12気圧の防水性能を実現しているため、トゥールビヨンを装着したまま泳ぐことだって可能だ。週末の楽しみ方によって、この時計を選ぶのも悪くないだろう。

ダイヤルの開口部からは、改良されたCal.HMC 805の大型トゥールビヨンケージが見える。旧モデルのスティール製トゥールビヨンに搭載されていたCal.HMC 804と大きく異なるわけではないが、近年行われた3針ムーブメントのアップデートと視覚的に統一されたデザインとなった。ムーブメントの構造もより興味深いものになっており、ブリッジの多くがスケルトナイズされ、よりコントラストの効いたアンスラサイト仕上げが施されている。そしてもちろん、モーザーの象徴ともいえるダブルヘアスプリングがトゥールビヨンとともに存分に鑑賞できる仕様となっている。

興味深いことに、この時計にはカーキグリーンのラバーストラップが組み合わされている。防水性能を備えたトゥールビヨンにラバーは理にかなっているが、カーキグリーンという選択には少し驚かされた。ただ誤解しないでほしい。意外にもよくマッチしており、赤を強調しすぎるよりもバランスが取れていると思う。しかし、この配色がオーナーのカスタマイズではなく、ブランドの意図として取り付けられている点には少なからず意外性を感じた。

H.モーザー パイオニア・トゥールビヨン バーガンディの価格は1071万4000円(税込)で、すでに販売中だ。

我々の考え
この時計は非常に魅力的であり、トゥールビヨンを検討しているなら同カテゴリのなかでも優れた価値を持つ1本と言えるだろう。モーザーに対する個人的な印象だが、同ブランドの時計はコレクター向けという側面が強い。実際にモーザーのオーナーたちは、すでに多数の時計を所有しているという人が多い。このモデルも、まさにそうした層にとって興味深い選択肢となるはずだ。

同時に、高級時計の複雑機構を備えながら、あらゆるシーンで着用できる1本を求める人にとっても有力な選択肢となるだろう。モーザーの時計は目立つことを避けたい人にとっても適したものとなっているが、それでも腕元にソリッドゴールドの塊を乗せている以上、その点では限界があるかもしれない。

また、キャリバーを新世代のデザイン言語へと少しずつアップデートしている点も好感が持てる。過去のモデルも同様の仕上げに刷新されるのか、それとも新たなカラーバリエーションが登場して順次入れ替わっていくのかは気になるところだ。生産の観点から見れば、キャリバーの仕上げを統一する方が合理的だろう。いずれにせよこの時計を実際に手に取るのは楽しみであると共に、これを身につけてそのまま海へ飛び込むという豪快なオーナーに会うのも待ち遠しい。

基本情報
ブランド: H.モーザー(H. Moser & Cie.)
モデル名: パイオニア・トゥールビヨン バーガンディ(Pioneer Tourbillon Burgundy)
型番: 3805-0400

直径: 40mm
厚さ: 12.0mm
ケース素材: 5N レッドゴールド
文字盤色: バーガンディ
インデックス: アプライド
夜光: あり
防水性能: 12気圧
ストラップ/ブレスレット: カーキのラバーストラップと5Nレッドゴールド製クラスプ

伝統ある時計メーカーの歩みと未来。

マサチューセッツ州チェルシーにある三角の形をした小さな工場、チェルシークロック。100年以上にわたり、大統領、海軍、数え切れないほどの著名人、そしてクラシックなアメリカ時計を求めるすべての人々のために時計を手作りしてきたこの工場は、苦難の時代を乗り越えてきた街のランドマークであり、これまで会社を支えてきた。しかし、次の100年に向けた準備として、チェルシークロックはまもなく現在の場所を離れ、より近代的な施設へと移転する予定だと、J・K・ニコラス(JK Nicholas)最高経営責任者は語る。今回は、アメリカの時計づくりのランドマークである、この建物のなかをご案内しよう。

「この建物には、何ともいえない味わいがある」と、ニコラス氏は現在の工場について語る。「でも、本当に実用的ではないこともわかります」

 実際、そのとおりだった。

 建物は古くて窮屈だ。そして21世紀の競争を勝ち抜くには、製造工程を可能な限り改善することが現実的な選択肢となる。しかし、ニコラス氏は遠くへ移転するわけではないと語る。チェルシーはこれからもチェルシーにあり続ける。

 引っ越しの準備が始まる前に我々は工場のなかを見学し、チェルシークロックが何世代にもわたって真摯な手仕事へのこだわりを貫きながら、どのようにして生き残ってきたのかを確かめたかった。

チェルシークロックの数々。

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 クラシックなチェルシークロックはもともと船のブリッジや操舵室での使用を想定して設計された、真鍮製の船鐘と気圧計をセットにしたものだ。チェルシーを象徴するこれらのアイコニックな製品が、この会社を100年以上支えてきた。船の当直(英語で“watch”と呼ばれる)は、伝統的に4時間交代で行われる。チェルシーの船鐘は、船員に当直の交代を知らせるために設計されている。時計は30分ごとに1回鳴り、以降30分ごとに音が追加され、4時間経過すると合計8回の音で当直の終了を知らせる。このサイクルが、次の当直でも繰り返される。

ティファニー向けのチェルシークロック

ハーバード大学やオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ向けの文字盤が準備完了。

 一方でチェルシーは、自社で組み立てた最新の手ごろなクォーツウォッチ、海軍艦艇向けに特別に製作された時計、退役した海軍用時計の修復品、そしてもちろん船鐘のさまざまなバリエーションまで、幅広い製品を展開している。

 また個人や企業向けに特注時計の製作も行っている。訪問時には、職人たちがハーバード大学、ティファニー、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブなど多様な特注製品の製作に取り組んでいた。

製造途中のイタリア製真鍮ケース。

イタリア製真鍮時計ケースを磨く作業。

 チェルシーの時計と気圧計は、鍛造された真鍮でつくられている。イタリア製の重厚な金属(6フィートモデルでは7ポンドの重量)と革張りのハンマーがチェルシー特有のクラシックな鐘の音色を生み出している。時計はすべて自社で製造されており、その工程は1900年に特許を取得して以来ほとんど変わっていない。

文字盤のシルバー加工。

シルバー加工済みの文字盤1枚と、未加工の真鍮製文字盤3枚が並ぶ。

 時計の製造はチェルシー工場の地下室から始まる。高品質のイタリア製真鍮が旋盤にかけられケースへと加工される。そのあと職人がケースを手作業で磨き込み、完璧な仕上げを施す。真鍮の文字盤には数字が刻まれ、手作業で銀溶液が塗布される。この銀溶液には意外にも酒石酸クリームが含まれている。この工程が文字盤の特徴的な銀色を生み出しているのだ。

船鐘のムーブメント用の真鍮部品をフライス加工する作業。

 同じ地下室では、職人たちがガシャンと音を立て、油を滴らせながら動く古い機械を使い、365個の部品からなるムーブメントの小さなホイール、ギア、スピンドルをひとつひとつ製造している。そのなかには宝石を使用したエスケープメントも含まれる。こうして地下室でつくられた部品は、小型の運搬用エレベーターで上階に運ばれ、そこで職人の手によって組み立てられる。

時計のムーブメントを調整する上級時計職人ジャン・ヨー(Jean Yeo)氏。

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 上級時計職人のジャン・ヨー氏は52年間チェルシーで働き、ムーブメントの組み立てをはじめとしたほぼすべての時計の文字盤加工や打刻を担当してきた。訪問時、彼女は後継者を育成している最中だった。印象に残った注文について尋ねると、彼女はボストンの熱心なスポーツファンらしくボストン・ブルーインズの伝説的選手ケン・ホッジ(Ken Hodge)の名前を挙げた。さらにジョー・ケネディ(Joe Kennedy)に会えたこともうれしかったと付け加えた。さらにエルビス・プレスリー(Elvis Presley)が注文した6インチ(約15cm)の船鐘時計60個も、特に印象に残っていると語った。

ケーシング直前のムーブメント。

 チェルシークロックは、アメリカの政治史にも特別な足跡を残している。これは歴代の大統領が執務室で長年使用してきたのだ。下の写真では、ハリー・S・トルーマン(Harry S Truman)大統領が閣僚とともに宣誓を行っており、その背後のマントルピースにチェルシークロックが置かれている。

チェルシークロックを背に、宣誓を行うハリー・トルーマン大統領と閣僚。

 チェルシーが今直面している大きな課題は若い世代のコレクターの関心を引くことだ。チェルシークロックに熱心なコレクターの多くは、いわゆる“グレイテスト・ジェネレーション”と呼ばれる世代で、ヨットマンや戦時中に従軍した海軍関係者などが多い。チェルシーは高品質なアメリカ製品への関心が再び高まるなかで、新しい世代のコレクターがチェルシークロックに魅力を感じることを期待している。

「チェルシークロックには宝飾品のような付加価値はありません」とニコラス氏は語る。「実際のところ、それは家庭用インテリアです。しかしニッチな愛好家にとっては、機械仕掛けの芸術品でもあるのです」

アメリカ政府の24時間時計。

 ニッチなコレクター層を超え、より幅広い人々にアピールすることがニコラス氏のチェルシーに対するビジョンの核心だ。彼は約7年前にこの会社を引き継いだ。彼によればその計画は新しいデザインを取り入れられるよう、チェルシーの立ち位置を見直すことだった。つまり工場に新たな活力をもたらし、グローバルな材料調達やエンジニアリングへの再投資といった21世紀型の製造プロセスを導入することだった。さらに、ニコラス氏は修理・整備事業の拡大にも取り組んできた。

「準備が整わないうちに、デザインを取り入れることは避けたかったのです」とニコラス氏は。「もう1度、開発とものづくりができる体制をしっかりと整えたかったのです」。しかし基盤が固まった今、ニコラス氏は“デザインを再び、新製品の原動力にするにはどうすればよいか?”と問いかけている。

 チェルシーの移転計画はその問いに対するひとつの答えだ。しかしこの変化があったとしても、チェルシーが“高品質な手づくりによる機械式時計製造”に対するこだわりを捨てることはない。それこそがチェルシーの根幹であり、だからこそこのブランドは100年ものあいだ存続してきた。そしてその姿勢こそが、これからの100年もチェルシーを支え続けることになるとニコラス氏は語る。

グランドセイコーの歴史において、今後間違いなくマイルストーンとなる注目の新作だ。

エボリューション9 コレクションから、年差±20秒の高精度を誇るスプリングドライブ新開発ムーブメント Cal.9RB2を搭載した時計が2種類発表されたのだ。それが2025年新作のハイライト、ブライトチタンケースのSLGB003とプラチナ950ケースのSLGB001だ。前者はレギュラーモデルで、後者は世界限定80本(うち国内40本)のリミテッドモデルとなっている。さっそく、その特徴を紹介しよう。

新開発されたCal.9RB2。画像:セイコーウオッチ

どちらも共通して、新型のCal.9RB2を搭載する。その特徴は冒頭でも触れたとおりだが、最大の特徴は年差±20秒という圧倒的な精度を実現した点である。資料によれば、3ヵ月間の入念なエージング(安定動作するまで意図的に動作させること)を経た水晶振動子を、新設計のICとともに真空に密封し、温度、湿度、静電気、光などの影響を最小限に抑えることで高精度が実現された。封入されたICは、個々の水晶振動子の周波数を複数の温度で測定して得られたデータをもとに温度補正を行う。こうした温度補正の仕様は既存のスプリングドライブ Cal.9RA5、9RA2(ともに2020年発表)から引き継がれている。だが、新ムーブメントではスプリングドライブ史上初めて精度を補正するための緩急スイッチを採用した。パネライスーパーコピー代引き 激安これによって、長年の使用で発生する可能性のある精度のずれをアフターサービス時に補正することができるようになったという。シースルーバック仕様のため、搭載するムーブメントを見ることができ、SLGB003、SLGB001ともに仕様は同じだ。

こちらはブライトチタンケースのSLGB003のケースバック側。画像:セイコーウオッチ

プラチナ950ケースのSLGB001(写真)も、左に掲載しているSLGB003(ブライトチタンケース)も、ケースバックの仕様に大きな違いはない。

回転ローターには、年差精度を実現したムーブメントに与えられる“SPRING DRIVE ULTRA FINE ACCURACY”の文字が刻まれているのが特徴だ。ムーブメントの造形は、スプリングドライブムーブメントの製造地「信州 時の匠工房」から望む北アルプスの山々がインスピレーションの源泉となった。ムーブメントの表面には凍結した霧をイメージした、グランドセイコー独自の“霧氷仕上げ”を採用。そしてムーブメントの随所に椀状の面取りを施し、鏡面に磨き上げることで美しい輝きを与えている。

レギュラーモデルのSLGB003では、ケースとブレスレットにグランドセイコー独自のブライトチタンを採用する。ブライトチタンはステンレススティールよりも約30%重量が軽く、純チタンよりも明るい色味を持つのが特徴。ザラツ研磨を施すことによってチタンとは思えぬ輝きを放つ。一方、限定モデルであるSLGB001のケースはプラチナ950製だ。こちらも熟練の研磨師によるザラツ研磨によってゆがみのない鏡面と際立つ稜線が生まれ、高級機にふさわしい上質な輝きを備える。

また、ダイヤルはともに「信州 時の匠工房」の東に位置する諏訪・霧ヶ峰高原で厳冬期に見られる樹氷がモチーフとなっている。本作のダイヤルに見られる特徴的なパターンは、澄み切った雪原に林立する樹氷を精緻な型打模様で表現したもので、光の変化によって美しく煌めく表面加工を施す。極めて繊細なために少しわかりにくいかもしれないが、ダイヤルパターンこそどちらも同じであるものの、ふたつのモデルでは色味が異なる。レギュラーモデルであるSLGB003のダイヤルは、一見すると無彩色のシルバーのように見えるが、わずかに淡いブルーの色味を持ち、樹氷の清々しい空気感を表現。そこにブルースティールの秒針を組み合わせた。限定モデルであるSLGB001のダイヤルは、SLGB003よりもわずかに深みのあるブルーを採用。秒針もシルバーすることで、一層ダイヤルの存在感が際立つ表現がなされた。

通常モデルのSLGB003はグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンで購入可能で、価格は151万8000円。限定モデルのSLGB001は世界限定80本(うち国内40本)でグランドセイコーブティックでのみ発売。価格は550万円(税込)で、どちらも6月6日(金)からの発売を予定している。

ファースト・インプレッション
初見で目を奪われたのは、やはりダイヤルだった。もちろん、樹氷を表現したという新しい表面加工の繊細な表現も引かれた点だが、なんと言ってもU.F.A.(Ultra Fine Accuracy)の文字である。グランドセイコーは1969年に、機械式腕時計としての正確さを極限まで追求した超高精度モデルとしてV.F.A.(Very Fine Adjusted)を送り出した。その精度は月差±1分以内。これは平均日差でいうと日差が±2秒という驚きの数字だ。クォーツ制御のスプリングドライブでU.F.A.ということは、V.F.A.をはるかに超える精度なのだろうと、心が躍った。前述のとおり、このU.F.A.の精度は年差±20秒だ。単位が年差とはいえ、20秒という数字だけを見るとイマイチそのすごさが伝わりにくいかもしれない。次世代のスプリングドライブムーブメントとして位置づけられているCal.9RA5、9RA2(Cal.9RA5からパワーリザーブインジケーターをローター側にレイアウトしたもの)の精度は、平均月差±10秒、日差だと±0.5秒相当となる。対してU.F.A.では平均月差で±3秒相当になるといい、現在のフラッグシップであるCal.9RA5、9RA2の数字を大きく上回る高精度を実現する。

そしてダイヤルと並んで印象的なのが、サイズ感である。U.F.A.モデルはエボリューション9 コレクションに属しており、デザイン文法であるエボリューション9スタイルに則った視認性と独創性を高い次元で両立したダイヤル、薄型で低重心のケース、幅の広い安定感のあるブレスレットを備えているため、既存のコレクションと40mmサイズかと想像していたが、腕に乗せてみると思っていた以上に小振りだ。そう、U.F.A.モデルのケース径は37mmで、これはCal.9R搭載モデルのなかでは最小となる。小型化と薄型化を実現した新ムーブメントを搭載することで37mmというケース径に収めることができたそうだ。ムーブメント自体の厚みは外径30mmで、厚さは5.02mm。9RA2搭載モデルのケース厚が11.8mmであるのに対して、このスリムなムーブメントによりU.F.A.モデルのケース厚は11.4mmと0.4mm薄くなっている。

また、つけたときに知って感動したのが、グランドセイコーとして初めて採用されたという新しいクラスプの存在だ。レギュラーモデルのブライトチタン製ブレスレットは、2mm単位で3段階の調整が可能な新しいクラスプを備えており、上の写真のようにクラスプの内側に設けられたボタンを押してスライドさせるだけで簡単にフィット感の微調整が行えるのだ。U.F.A.モデルもエボリューション9スタイルに則っているため、適度な幅と厚さによって安定感のある優れた装着性を備えているが、このクラスプにより一層快適につけられる。実用に配慮したありがたい機構で、個人的には既存のモデルにおいても今後は標準採用されることを期待している。

Photo by Yusuke Mutagami

新作のU.F.A.モデルは、その圧倒的な精度はもちろんのこと、装飾やディテール、実用性においても最高峰の腕時計を目指すグランドセイコーにふさわしいモデルだと感じられた。ただひとつ気になっているのは、なぜ困難な精度追求へ挑戦したのかということだ。グローバル戦略を進めるなか、その成功の原動力となったように、グランドセイコーは圧倒的な表現力で実現させた独創的なダイヤルで海外コレクターを魅了した。圧倒的な精度追求というのはどちらかと言えば、真面目な日本のコレクターに刺さるトピックであろう。本作は日本のコレクターを主なターゲットとしているのなのだろうか? Watches & Wonders 2025の期間中、グランドセイコーにおける精度追求の意義については、ぜひ直接話を聞こうと思っている。

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基本情報
ブランド:グランドセイコー(Grand Seiko)
モデル名: エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U. F. A.(Evolution 9 Collection Spring Drive U. F. A.)
型番:SLGB003(レギュラーモデル)、SLGB001(限定モデル)

直径:37mm
厚さ:11.4mm
ケース素材:ブライトチタン(SLGB003)、プラチナ950(SLGB001)
文字盤色:ともに澄み切った雪原に林立する樹氷の美しさを表現した精緻な型打ち模様。ライトブルー(SLGB003)、SLGB003よりもわずかに深みのあるブルー(SLGB001)
インデックス:アプライド
夜光:なし
防水性能:10気圧(日常生活用強化防水)
ストラップ/ブレスレット:ブライトチタン製ブレスレット(SLGB003)、2mm単位で3段階のスライド調整が可能な新開発微調整機構付きクラスプ。クロコダイルストラップ、プラチナ950製バックル(一部は18Kホワイトゴールド)

ムーブメント情報
キャリバー:9RB2
機能:時・分表示、センターセコンド、3時位置に日付表示、パワーリザーブインジケーター(裏蓋側)
直径:30mm
厚さ:5.02mm
パワーリザーブ:72時間
巻き上げ方式:自動巻きスプリングドライブ
振動数: 3万2768振動/秒(1億1796万4800振動/時)
石数: 34
クロノメーター認定:なし。U.F.A.(Ultra Fine Accuracy)
追加情報:年差±20秒

価格 & 発売時期
価格: SLGB003は151万8000円、SLGB001は550万0000円(ともに税込)
発売時期: 6月6日(金)
限定:SLGB003は通常モデルでグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロン、SLGB001は世界限定80本(うち国内40本)でグランドセイコーブティックでのみ発売の専用モデル

グランドセイコー初の機械式クロノグラフウォッチとしてテンタグラフが登場!

2022年にコンスタントフォース・トゥールビヨン搭載の“Kodo”がジュネーブ ウォッチ グランプリにてクロノメトリー賞を受賞していたこともあり、Watches & Wondersの会場でお披露目されたテンタグラフにも強い関心が寄せられていた。グランドセイコーらしい堅牢かつ合理的な設計と、その名前に端的に示された高いスペック(TEN beats per second=10振動、Three days=3日間のパワーリザーブ、Automatic=自動巻き、chronoGRAPH=クロノグラフ)もあり、同モデルは各メディアから高い評価を受けていたようだ。

それから2年が経過した2025年、テンタグラフが再びWatches & Wondersに帰ってきた。そろそろ2作目が出てもいいころだと思っていたが、そのデザインは僕の予想から大きくかけ離れたものだった。大胆なカッティングが施された無骨なブリリアントハードチタン製のケース、有機的で躍動感のあるダイヤルは、ともに“獅子(ライオン)”をイメージしたものであるという。

獅子は1960年に誕生した初代グランドセイコー以来、ブランドの象徴として裏蓋に刻まれ続けてきたモチーフだ。百獣の王の刻印には、“最高峰の腕時計を目指す”というグランドセイコーの揺るぎない意志が込められており、本作では“トーキョー ライオン テンタグラフ(Tokyo Lion Tentagraph)”というモデル名にもその精神が投影されている。

なかでも目を引くのが2023年の前作テンタグラフとは大きく印象を異にする、金属の塊を削り出したような荒々しい造形のケースだ。ヘアラインを基調としつつポリッシュとの巧みな磨き分けが施されたその表面仕上げは、素材の質感と重厚さを際立たせている。よく見るとベゼルとケースは2体構造となっており、この設計によって鋭角的なエッジの立った磨き分けが可能になっている。

さらに、獅子のたてがみが風になびく様子から着想を得たというユニークなダイヤルも印象的である。水平方向にランダムな幅で走る有機的なパターンの上に、多面カットが施されたアプライドインデックスが整然と配置され、ダイヤル全体に引き締まった力強さを与えている。各インデックスは凹型に切削され、その内部にはたっぷりとルミブライトが充填されている。極太の針とあいまって、暗所での視認性にも大いに期待が持てそうだ。

クロノグラフのプッシャーはケース同様に大振りで直線的な造形となった。大きく入れられた刻みは指へのかかりがいいだけでなく、SLGC001でも好評を得ていた優れた押し心地も踏襲されている。また、プッシャーの下部から裏蓋に向けてグッと内側に絞られていることにより、サイドビューにはそこまでの重厚さを感じない。また、ここにもポリッシュが施されており、サテン仕上げとのコントラストによって立体感を強調している。

ムーブメントにはもちろん、グランドセイコー初の機械式クロノグラフムーブメントであるCal.9SC5ことテンタグラフを搭載。これはベースとなるCal.9SA5の薄さを生かしたモジュール式のムーブメントであり、曲線を生かしたパーツの造形や美しい仕上げを、シースルーバックから眺めることができる。

なお、この時計の裏側には獅子をイメージした遊び心あるディテールが潜んでいる。以下の写真を見てわかった人もいるかもしれないが、ラバーストラップの取り付け部分近くに4つ指の“肉球”のようなデザインが施されているのだ。このあしらいはただユニークなだけでなく、手首への設置面を抑えてつけ心地を向上させる役割もある。ちなみにこのラバーストラップはトーキョー ライオン テンタグラフのために新たに開発されたもので、シリコンストラップの2倍以上の引っ張り強度を誇るという。

トーキョー ライオン テンタグラフことSLGC009の価格は231万円(税込)。8月8日(金)より全国のグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンにて発売予定だ。

なお同じタイミングで、E9(Evolution 9)コレクションにもテンタグラフの新作SLGC007が登場している。黒いサブダイヤルをスノーブルーの岩手山パターンが取り囲んだ、パンダ風ダイヤルが特徴的だ。前作のダークブルーダイヤルと比較して、コントラストが効いたスポーティな顔立ちとなっている。ケースサイズは直径43.2mmで、厚さが15.3mm。価格は198万円(税込)で、5月10日(土)からの販売を予定している。

ファースト・インプレッション
2年の歳月を経て、テンタグラフがこれほど大胆な変貌を遂げるとは誰が予想しただろうか。前作は、日本的な“光と陰の中間の美の豊かさ”を志向するE9のデザインコードを踏襲していたが、今回はスポーツコレクションとしての発表となったためか、一転してメリハリの効いたワイルドな雰囲気が前面に打ち出されている。ダイヤルのゴールドと見返しおよび6時・9時のブラウンの取り合わせも、どこかサファリを思わせる。モチーフとされた獅子の力強さが、視覚的にわかりやすい形でデザインに落とし込まれている。なおセイコーいわく、本作はテンタグラフをスポーツウォッチにするという発想から生まれたものではなく、新たなデザインスポーツウォッチを模索した結果として、グランドセイコーのメカニカルクロノグラフを象徴するテンタグラフこそがふさわしいと考えたそうだ。

なお、この特徴的なケース形状は今回初めて登場したわけではない。グランドセイコーはスプリングドライブ誕生20周年の際に、“獅子”というモチーフを全面に押し出した3部作(SBGC230、SBGC231、SBGA403)をリリースしている。これらのモデルにはすでに、ブレスレットを左右から力強く掴む“獅子の爪”を思わせるラグが採用されていた。その後も、2020年のSBGC238、2023年のSBGC253とSBGA481、2024年のSBGE307と、ブランドは定期的にこのケースデザインを採用し続けている。これら“トーキョー ライオン”と名付けられたコレクションにおいて、グランドセイコーは獅子のたてがみをイメージしたパターンをダイヤルにあしらい、表現方法こそ異なるものの、獅子が持つむき出しの野生を時計全体で力強く表現してきたのだ。

2019年にリリースされたSBGC231。

そしてトーキョー ライオン テンタグラフでは、ケースにもうひと工夫を加えることでさらなる迫力が加味されている。その工夫とは、ケースと同様に直線的な構造を持つベゼルパーツの存在だ。右の写真は2019年に登場したSBGC231だが、ケースの基本形状は同じでありながら、ベゼルのデザインが異なるだけでグッとシャープな印象となる。今回の新作では大胆なパターンが施されたダイヤルに対し、ボリューム感のあるベゼルパーツが絶妙なバランスを保ち、互いに引き立て合いながらダイナミックなルックスを形作っている。セイコーは広報資料でこの時計について「獅子の持つ威厳や気高さに由来するスタイルをまとったスポーツウオッチ」と述べているが、まさにそのコンセプトに則ったデザインだ。

その一方で、着用感はいたって軽やかだ。ブリリアントハードチタン製ということもあるが、手首を掴むように緩やかにカーブしたケースバック、低く取られた重心によって長時間着用していても疲労はあまり感じなかった。それには、特徴的なラバーストラップの存在もひと役買っているかもしれない。少々きつめに手首に巻いても、上にも記載したストラップ裏の凹凸によって締め付けられるような感覚はなかった。

ケース径に対しラグトゥラグは控えめだ(50mm)。ご覧のとおり、成人男性において平均的な太さを持つ(17cm周)僕の手首からもはみ出すことなく収まっている。Photo by Kyosuke Sato

個人的には、この野生的なルックスを実現するために、随所に繊細な加工が施されているというギャップにも魅力を感じている。たとえばプッシャーは従来どおりの円柱形にすれば、はるかにコストを抑えられたはずだ。加えてスムーズな押し心地を追求するために、ケースとの調整には何度も手が加えられたのではないかと思う。また3時・6時・9時位置のサブダイヤルは、実はメインの文字盤とは別体で構成されている。わずかにくぼんだお椀型のフォルムと、ダイヤル表面から浮き立つようなエッジの効いた縁取りは、通常の型打ちでは表現が難しいだろう。だがそのこだわりがあるからこそ、ダイヤルにはグランドセイコーらしい上質さと高級感が宿っている。

この時計は、グランドセイコーによる上質なものづくりを理解していつつ、もう1歩踏み込んだ個性を求める人にこそすすめたい。過去数作に遡る“獅子”モチーフのモデルと比較しても、トーキョー ライオン テンタグラフはパッと見で異質とも言える存在感を持つモデルだ。しかし本作は、前作SLGC001ですでに評価の高いムーブメントと実績のあるケースをベースとしており、決してグランドセイコーのラインナップにおいて突飛なものではない。そして挑戦的なルックスを支えるのは、同ブランドらしい繊細なウォッチメイキングだ。グランドセイコーの美学に慣れ親しんだファンにも、新鮮な発見をもたらしてくれる新たなスポーツモデルである。

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基本情報
ブランド: グランドセイコー(Grand Seiko)
モデル名: スポーツコレクション トーキョー ライオン テンタグラフ
型番:SLGC009

直径: 43mm
厚さ: 15.6mm
ケース素材: ブリリアントハードチタン
文字盤色: ゴールド
インデックス: アプライド
夜光: 時・分針、3時側サブダイヤルの秒針、インデックスにルミブライト
防水性能: 20気圧防水
ストラップ/ブレスレット:ブライトチタン製のバックルが付属したラバーストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: 9SC5
機構: 時・分表示、センターセコンド、デイト表示、クロノグラフ機能
パワーリザーブ: 約72時間(クロノグラフ作動時)
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時
石数: 60石
追加情報:平均日差+5~-3 秒

価格 & 発売時期
価格: 231万円(税込)
発売時期: 8月8日(金)
限定: なし(グランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンにて販売)