ロンジンのフラッグシップであるロンジン マスターコレクションの新作が登場した。

ロンジンについては卓越した計時技術や航空時計の歴史が多く取りざたされるが、魅力はそれだけではない。今回の新作は、その異なる側面から深遠たるブランドの真髄をあらためて探るのだ。

スイス・サンティミエで1832年に創業し、1867年に初の自社工場を建造した土地にちなんだブランド名を持つロンジン。懐中時計の製造技術に長け、いち早く近代的な量産体制を整えたことでその名を世界に知らしめた。高精度で耐久性にも優れたことから、腕時計に移行後もスポーツや航空、アドベンチャーといった分野で多くの実績を残す。こうしたウォッチメイキングの長い歴史と伝統にフォーカスするラインとして、2005年に生まれたのがロンジン マスターコレクションだ。

今回の新作は、昨年発表された190周年記念モデルをベースにしている。これは、歴史的な懐中時計やヘリテージウォッチのデザインモチーフを現代的なアレンジで再編集して、高く支持されたモデルだ。今回のマスターコレクションでは、これをセンターセコンドからスモールセコンドに変更し、ケースサイズも40mmから38.5mmに小径化。その内容はバリエーションの域を越えて、新たな個性になっているといっていいだろう。それだけの開発期間を考えれば、1年足らずの発表もただ前作のヒットを受けてというより当初からの既定路線だったと思われる。

時計の歴史とともにつねに時代の息吹を注ぐ

ロンジンというブランドを語るとき、まず挙がるのは長い歴史と伝統に培われた技術であり、名作の数々だろう。多くの栄光に輝いた懐中時計から、高精度と信頼性でスポーツ計時のパイオニアとなり、さらに探検家や飛行家の数多くの冒険を支えた。だがこうした偉業ばかりでなく、いつの時代も人々の日常に寄り添い、その憧憬やニーズを捉えた時計を提供してきたことも見逃せない。

市民革命により台頭した新興ブルジョワジーは、それまでの封建勢力とは異なる価値観を持ち、新たなライフスタイルを謳歌した。その象徴のひとつになったのが腕時計だった。ロンジンが初の腕時計を製造したのは 1894年のことだ。20世紀初頭、腕時計の需要が高まり始めると、ロンジンはこの新たなトレンドに着目し、この分野でもパイオニアとなっていく。1910年代に早くも初の腕時計を発表しただけでなく、この新しいライフスタイルに対応するために楕円形、正方形、長方形など、新しい形状のムーブメントを導入することで、さらに1歩前進させたのだ。ロンジンはまた、腕時計に対する女性のニーズや需要も意識していた。そのため、1912年には早くも女性の手首にフィットするエレガントな腕時計を提供するべく、ムーブメントの小型化に着手している。

1925年のパリ博覧会で紹介されたアール・デコ様式の影響は、建築や工業製品始め、ウォッチデザインも例外ではなかった。こうした先進的なデザインを纏い、時計は日常を彩るアクセサリーとして洗練に磨きをかけた。ロンジンはこの博覧会に出品し、グランプリを獲得。アール・デコを着想源とした多くの作品を発表している。なお、ロンジンは長方形や楕円形の小型ムーブメントを自社で製造することができたため、これが女性用のエレガントな腕時計の最先端を走るベースとなった。当時、男性用として一般的であった懐中時計ではなく、手首に時計を着用するファッションをスタートさせたのである。

世界大戦の時代が終わり、1945年にロンジンは初の双方向回転ローター搭載した時計のひとつであるCal.L22Aを開発。その効率的な巻き上げシステムは特許を取得した。また、ロンジンは1959年に作られた天文台キャリバー360で技術的なマイルストーンを打ち立てた。自動巻き時計には、ゼンマイを巻き上げる手間を必要としないという実用的な利点があり、秒単位の正確な読み取りを両立したセンターセコンドは、自動巻きの象徴として先進の時を刻んだ。こうして常に時計の進化と歩みをともに、ロンジンは時代の息吹を注ぐスタイルを生み出してきたのである。

ほどよいサイズに際立つスモールセコンド

ロンジン マスターコレクション(シルバーダイヤル)
Ref.L2.843.4.73.2 37万8400円(税込)

サンドブラスト仕上げのシルバーカラーの文字盤にブルースティール針が生える。ベースとなった190周年記念モデルよりもさらにクラシックへの回帰を感じさせる1本。

ロンジン マスターコレクションの新作の内容を見てみよう。190周年記念モデルがセンターセコンドを採用しモダンな50年代スタイルに仕上げたのに対し、スモールセコンドを搭載した新作は、さらに30年代に遡る。目を引くのは精巧なエングレービングで仕上げたブレゲ数字だ。これは細心のCNC切削でも1数字を彫るのに約6分かかり、1枚を完成させるのは計80分を要するという。その外周には大小のメリハリをつけたドットインデックスが刻まれる。視認性を高めるため、フランジ部分はすり鉢状にスロープされているが、こちらは60年代の雰囲気だ。

スモールセコンドは文字盤全体に対してバランスよくレイアウトされているが、これもケース径を40mmから38.5mmに変更した理由のひとつだろう。文字盤に凹凸をつけ、レイルウェイトラックを記したレコードパターンを刻み、存在感を際立たせる。ブルーのリーフ針や筆記体の旧ロゴがヴィンテージ感を演出する一方、文字盤を被う風防はフラットになり、コンテンポラリーな印象を与える。カレンダーを省いたのは、実用性以上に様式美を求めた好ましい英断だ。

左は昨年登場した40mm径・センターセコンドのロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル。右は38.5mm径・スモールセコンド仕様として新たに仲間入りした新作のロンジン マスターコレクション。

キャリバーはロンジンエクスクルーシブのL893を搭載する。シリコン製ヒゲゼンマイを採用し、約72時間のパワーリザーブを備える。ちなみに190周年記念モデルが採用するL888.5(ETA A31.L01)とは、センターセコンドとスモールセコンドという仕様の異なる兄弟キャリバーであり、そのスペックは共通だ。

ロンジン マスターコレクション(サーモンダイヤル)

Ref.L2.843.4.93.2 37万8400円(税込)

サーモンカラー文字盤は主に1950年代に流行したもので、現在多くのブランドが注目するトレンドカラー。一方でバーティカルサテン仕上げは当時とは異なる現代の雰囲気を付け加える。

ロンジン マスターコレクション L2.843.4.93.2 を見る

カラーバリエーションは3種類が用意されている。シルバー文字盤はサンドブラスト仕上げにブルーのリーフ針が映え、際立つ彫り数字もモダンな印象だ。今年の注目色であるサーモンピンクを採用した文字盤には、バーティカルサテン仕上げを施し、シャープなメタル感を演出する。針や彫り数字はブラックで統一し、そのコントラストが艶のある全体を引き締める。アンスラサイトの文字盤は、粒子のようなテクスチャー感のあるシボで仕上げる。針や彫り数字、ロゴなどにはアクセントカラーを用い、シックな風格を漂わせる。

同じデザインではあっても、カラーリングや仕上げの違いで異なる個性が楽しめる。好みや自身のスタイルに合わせて選べるのもうれしいところだ。

ロンジン マスターコレクション(アンスラサイトダイヤル)

Ref.L2.843.4.63.2 37万8400円(税込)

3つのバリエーションのなかでも最も現代的なのはアンスラサイトダイヤルだろう。シボ加工が施された文字盤にピンクの針を組み合わせたコントラストの効いたスタイルは、ヴィンテージとは一線を画すものだ。

ロンジン マスターコレクション L2.843.4.63.2 を見る

マスターコレクションは2005年に誕生し、現代のリバイバルデザインの先駆けとなった。しかしその内容は前述のとおり、決して単なる復刻ではない。膨大なアーカイブのなかからより価値あるヘリテージを選りすぐったブランドの集大成である。だからこそクラシックとコンテンポラリーが独自のスタイルとして違和感なく調和するのだ。

以前ロンジンに、ブランドにおけるヘリテージの位置づけについて訊ねたことがある。それに対してロンジンは、ヘリテージは最新技術を駆使した新しいモデルを開発するためのインスピレーションの源となることが多く、クラシカルなモデルを参考にしている、と答えた。機能やデザインをただ再現するのではなく、時代の感性や技術で進化させてこそ、ヘリテージの価値を次世代に繋げられるということだ。その姿勢はロンジンがどこよりも自社ミュージアムを充実させていることにも表れている。

マスターコレクションの新作は絶妙な装着感とともに、シンプルではあっても細部まで凝った仕様や研ぎ澄まされた機能美が漂う。ひけらかすことなく腕元になじむスタイルからは、“Elegance is an attitude”というロンジンが掲げるブランド哲学が伝わってくるようだ。その佇まいを見ていると、有翼の砂時計のロゴに未来へ羽ばたく時への情熱を具現化した、ブランドのセンスを改めて感じるのである。

ブラウン×ポール・スミスのコラボレートによる2本の新作ウォッチが登場。

ドイツプロダクトデザイン大手のブラウンと、イギリスのファッションブランドであるポール・スミスが再度コラボレートし、今度はスイス製ETAムーブメントを搭載したモデルを発表した。

新作ウォッチ1本目(BN0279SLPS)は、ETA 2895-2ムーブメントを搭載したスモールセコンドと日付表示付きの40mm径マットシルバーステンレススティール製モデルだ。2本目(BN0279GNPS)も40mm径だが、マットなガンメタルのSS製ケースで、ETA 2892A2ムーブメントを搭載する。どちらもレインボーの秒針と3時位置に日付表示を備える。またシースルーバックで、ムーブメントが見えるようになっている。

生成される各リファレンスは100本のみ。しかも950ドル(日本円で約14万円)もする。

さて、ブラウンが1989年に作った最初のアナログウォッチを振り返ってみよう。お察しのとおり、AW10は33mmというシンプルな3針ウォッチだった。実際にはディートリッヒ・ルブス(Dietrich Lubs)とディーター・ラムス(Dieter Rams)による、機能性と視認性というビジョンを反映してつくられたものだ。おそらくこれは、2023年にはもっと大きなフォントサイズが必要だという事実を示しているのではないだろうか? 私たちの目が弱くなってきている? 画面からくる疲れ? よくわからないけれど。最新版のAW10は3万8500円(税込)で購入できる。

私はブラウンならAW20がいい。トニー・トライナはかつて、それが史上最高の日付窓を備えていると主張していたことがある。本当の話なら大きい。

話を戻して、この新しい40mm径自動巻きモデルには、6時位置にポール・スミスのサインが刻印されている。すっきりとしたミニマルなルックだ。これらのデザインはオリジナル製品から大きく逸脱することはない。

我々の考え
ブラウンは実は地味なコラボキングだ。オフホワイトやハイスノバイエティともコラボしたことがあり、ハイプの力はお手の物だ。しかし今回ポール・スミスと一緒に仕事をすることで、少し違ったデモを見ることができたのは確かだ。もう少し大人っぽく、もう少し洗練されていて、 “クリーニング屋から戻ってきたら、すぐにシャツをしまって、色やシーン別に掛けておく”ようだ。

ブラウンとのコラボレーションは、ディーター・ラムスのコアデザインの信条から大きく逸脱することはない。クールかつクリーンで、ミニマルなのだ。

ブラウンの腕時計に950ドル(日本円で約14万円)払うように説得するのは少し難しいかもしれないが、これは限定モデルであり、また自動巻きムーブメントとメンズウェアの生みの親であるポール・スミスによるお墨付きをもらっているのだ!

Braun x Paul Smith Watch
基本情報
ブランド: ブラウン(Braun)
モデル名: ポール・スミス + ブラウン BN0279(Paul Smith + Braun BN0279)

型番: BN0279SLPS(スモールセコンド)、BN0279GNPS(センターセコンド)
直径: 40mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: グレー
夜光: あり
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: 22mm幅ブラックPUストラップ

ムーブメント情報
Braun x Paul Smith watch caseback
キャリバー: ETA 2895-2、ETA2892A2
機能: 時・分表示、スモールセコンド、日付表示(スモールセコンドモデル)/時・分表示、センターセコンド、日付表示(センターセコンドモデル)
直径: 25.6mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 27(スモールセコンドモデル)、21(センターセコンドモデル)

価格 & 発売時期
価格: 950ドル(日本円で約14万円)
発売時期: 発売中
限定: あり、各リファレンス100本

ブラウン×ポール・スミスのコラボレートによる2本の新作ウォッチが登場。

そして今回はスイス製機械式ムーブメントを搭載している。

ドイツプロダクトデザイン大手のブラウンと、イギリスのファッションブランドであるポール・スミスが再度コラボレートし、今度はスイス製ETAムーブメントを搭載したモデルを発表した。

新作ウォッチ1本目(BN0279SLPS)は、ETA 2895-2ムーブメントを搭載したスモールセコンドと日付表示付きの40mm径マットシルバーステンレススティール製モデルだ。2本目(BN0279GNPS)も40mm径だが、マットなガンメタルのSS製ケースで、ETA 2892A2ムーブメントを搭載する。どちらもレインボーの秒針と3時位置に日付表示を備える。またシースルーバックで、ムーブメントが見えるようになっている。

生成される各リファレンスは100本のみ。しかも950ドル(日本円で約14万円)もする。

さて、ブラウンが1989年に作った最初のアナログウォッチを振り返ってみよう。お察しのとおり、AW10は33mmというシンプルな3針ウォッチだった。実際にはディートリッヒ・ルブス(Dietrich Lubs)とディーター・ラムス(Dieter Rams)による、機能性と視認性というビジョンを反映してつくられたものだ。おそらくこれは、2023年にはもっと大きなフォントサイズが必要だという事実を示しているのではないだろうか? 私たちの目が弱くなってきている? 画面からくる疲れ? よくわからないけれど。最新版のAW10は3万8500円(税込)で購入できる。

復刻版のブラウン AW10。Photo: courtesy Braun P&G

私はブラウンならAW20がいい。トニー・トライナはかつて、それが史上最高の日付窓を備えていると主張していたことがある。本当の話なら大きい。

話を戻して、この新しい40mm径自動巻きモデルには、6時位置にポール・スミスのサインが刻印されている。すっきりとしたミニマルなルックだ。これらのデザインはオリジナル製品から大きく逸脱することはない。

我々の考え
ブラウンは実は地味なコラボキングだ。オフホワイトやハイスノバイエティともコラボしたことがあり、ハイプの力はお手の物だ。しかし今回ポール・スミスと一緒に仕事をすることで、少し違ったデモを見ることができたのは確かだ。もう少し大人っぽく、もう少し洗練されていて、 “クリーニング屋から戻ってきたら、すぐにシャツをしまって、色やシーン別に掛けておく”ようだ。

ブラウンとのコラボレーションは、ディーター・ラムスのコアデザインの信条から大きく逸脱することはない。クールかつクリーンで、ミニマルなのだ。

ブラウンの腕時計に950ドル(日本円で約14万円)払うように説得するのは少し難しいかもしれないが、これは限定モデルであり、また自動巻きムーブメントとメンズウェアの生みの親であるポール・スミスによるお墨付きをもらっているのだ!

基本情報
ブランド: ブラウン(Braun)
モデル名: ポール・スミス + ブラウン BN0279(Paul Smith + Braun BN0279)

型番: BN0279SLPS(スモールセコンド)、BN0279GNPS(センターセコンド)
直径: 40mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: グレー
夜光: あり
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: 22mm幅ブラックPUストラップ

ムーブメント情報
Braun x Paul Smith watch caseback
キャリバー: ETA 2895-2、ETA2892A2
機能: 時・分表示、スモールセコンド、日付表示(スモールセコンドモデル)/時・分表示、センターセコンド、日付表示(センターセコンドモデル)
直径: 25.6mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 27(スモールセコンドモデル)、21(センターセコンドモデル)

価格 & 発売時期
価格: 950ドル(日本円で約14万円)
発売時期: 発売中
限定: あり、各リファレンス100本

アビエーションに深いつながりを持つブランドと作り上げた、トラベラーGMTウォッチ。

ロンジンから発表された比較的新しいコレクションだ。しかしその背景には、かねてより深いつながりを築いてきたアビエーションへの敬意と、ブランドがこの分野で築いてきた確かな実績がある。パイロットウォッチらしく視認性に優れた無骨なディテールと、ロンジンが創業当時より大事にしているというエレガンスを現代的な時計製造技術を用いて融合させたモダンなミリタリーウォッチだ。登場からまだ3年ながらリリースのテンポは速く、2021年にはチタン製ロンジン スピリット、2022年には42mm径のZulu Time、そして今年2023年にはZulu Timeの39mm径にフライバッククロノ(しかもそのチタンモデルまで!)と、僕たちの関心を誘うモデルが次々に登場している。

そして、その勢いに乗るかのようなタイミングで、ロンジン スピリット Zulu Time リミテッドエディション for HODINKEEを、12月5日(火)の深夜に全世界に向けて発表した。ロンジン スピリット Zulu Time 39mmをオールグレード5チタンで仕上げた、税込価格で60万円を切るハンサムなトラベルウォッチだ。

少し話は逸れるが、僕はあまり国外への渡航経験がなく、これまではGMT機能についてタキメーターやヘリウムエスケープバルブのように“自分ではおよそ活用しないが便利なもの”として分類していた。しかしパンデミックがようやく落ち着きを見せた今年、距離的にも精神的にも遠く感じていた海外が、再び僕たちの生活に戻って来つつある。2023年は時計業界でも、国内外問わず遠方に足を運ぶイベントが目に見えて増えた年だった。加えてここ最近続いているトレンドもあり、今年は(とにかく多かった)GMTウォッチのリリースに目を奪われ続けていたように思う。そんななか、リリースされたばかりのコラボウォッチが編集部に届いた。ケースを開けて手首に乗せた瞬間、僕の心は大きくざわついた。それから1週間ほど経つが、この時計とともにまだ見ぬスイスの地を行くイメージが頭の片隅にこびりついている。最初に手に取ったときに感じた高揚が何だったのか、確かめるべく再び箱から取り出してみた。

改めて、ロンジン スピリット Zulu Time リミテッドエディション for HODINKEEのサイズからチェックしていこう。ベースとなったのはロンジン スピリット Zulu Timeの39mm径モデルで、厚さは13.5mm、ラグトゥラグは46.8mmと、ジェームズがSSモデルの記事で述べているようにスポーツウォッチとしてあらゆる人が身につけやすいミドルサイズに仕上がっている。僕の手首周りは約17cmで、これは日本人男性の平均と一致するそうだが、下写真でご覧いただけるとおり大きすぎず、小さすぎもしないジャストなフィット感だ。手首の幅に対してラグの余りもない。

特筆すべきは、サイズに対しての圧倒的な軽さだ。39mm径のステンレススティール(以下SS)モデルの本体重量が99.3gであったのに対し、今作はグレード5チタンの採用によって約半分となる51gまで抑えている。ムーブメント自体に変化がないことを考えると、大変なダイエットだ。この写真を撮影した日は直前までロンジンのクロノグラフモデル(ストラップを除く重量は98.2g)をつけていたが、いざ今作を手首に乗せたときのギャップは大きかった。ブレスは従来モデル同様、21mmから16mmまで強くテーパーした品のあるスタイルだが(このブレスはジャケットを着るような日のスタイリングにもしっくりくる)、手首を大きく動かしたときもヘッドの重量に振り回される感覚はまったくなかった。

また、素材とともに仕上げにも言及しておきたい。SSと比較してチタンの質感は温かみがあると表現されることが多い。今回のコラボモデルにおいても、ベゼル正面やケースに見られるヘアライン部はチタンならではの柔らかな光を放っている。しかし一方で、ポリッシュ部はSSと見紛うほどの仕上げが施された。特に、ヘアラインとポリッシュが交互に施されたブレスのコントラストには目を引かれる。ブレスのサイドにもポリッシュがかけられており、ふと傾けて見たときに美しく光り輝く。

なお、もうご存じの人も多いと思うが、Zulu Timeは時針のみを1時間刻みで動かすことができるローカルジャンピングGMT機能と、回転ベゼルによる第3時間帯表示を備えた時計だ。前者は完全に針を停止させることなく現地時間に調整することができる便利な機能であり、“トラベラーGMT”と呼ばれることもある。同価格帯での競合は今でこそ増えているものの、かつてはGMT針単独稼働型のいわゆる“オフィスGMT”がこのレンジの主流だった。2018年、チューダーのブラックベイ GMTが開拓して以降発展してきたミドルプライスのGMT市場において、100年以上前からロンジンのようにGMTウォッチを展開してきた歴史あるブランドのトラベラーGMTウォッチが手に入るというのはありがたいことだ(1908年にオスマン帝国向けに世界初のデュアルタイムゾーン懐中時計を、1925年には角型腕時計“ズールータイム”をリリースしている)。

なお、ローカルジャンピングGMTについて、HODINKEEではフライヤー(Flyer)GMTと表記することがある。実際に飛行機に乗って異国を行き来するジェットセッターにとって非常に重宝される機能であることから、そう呼ばれている。彼らはときに大きな荷物を抱えて、トランジットを含めて片道1日、いや2日はかかるような旅に出かける。その道中、体に密着している時計は1gでも軽いほうがいいだろう。12時間を超えるようなフライトは新婚旅行でスペインを訪れたとき以来経験していないが、そのとき手首にあったダイバーズウォッチを到着時にひどく重たく感じたことを今でも覚えている。この日は撮影を含めて3時間ほど着用しただけだったが、そのあいだ手首の上でわずらわしさを感じることは一度もなかった。

今回、もっとも気に入ったのはダイヤルデザインだ。すでにZulu Timeを持っているなら手元で見比べて欲しいが、いくつかの要素が省略され、非常にすっきりとまとまっていることがわかると思う。例えば、“LONGINES”の文字下にあった両翼の砂時計のロゴ。ブランドの創業時から使用されている由緒と歴史のあるものであり、これがダイヤルにあるとどこかエレガントさと気品が漂う。だが、ヘリテージ アヴィゲーションシリーズや、一部のヘリテージ クラシックでは省略されていることが多い。僕が持っているアヴィゲーション ビッグアイも12時位置には“LONGINES”とそっけなくプリントされているだけなのだが、このほうが古きよき時代のパイロットウォッチといった趣が強まるように思える。また、今作ではロンジン ヘリテージコレクションに共通していた6時位置の5つ星も省略され、デイトは6時位置から3時に移動してインデックスに溶け込むようなカラーリングが施された。アンスラサイトの控えめなダイヤルはマットな質感のチタンベゼルと相性がよく、総じて現代的なスポーツウォッチに見られるギラつきや主張を抑えたクラシカルな顔立ちに仕上がっている。ミッドセンチュリー特有のさりげない美しさを目指したとローンチ時の記事にも書かれているが、確かにどんな手首にも自然に馴染む、トレンドに左右されない飽きのこないデザインだと思う。

リューズの砂時計ロゴはそのまま残されていて、シンプルなサイドビューのアクセントとして機能している。ソリッドケースバックで“ZULU TIME”の文字があった場所には“HODINKEE LIMITED EDITION”と刻印が施され、ロゴを挟んだ下部にはシリアルの表記もある。また、ブレスレットはインターチェンジャブルシステムを採用しており、工具を使わずに簡単に着脱が可能だ。

シチズン プロマスターより、ブランド初となる機械式GMTウォッチが登場。

プロマスターらしい頑強なパッケージにタフネスあふれるスペックを搭載した、パフォーマンスに優れるFlyer GMTウォッチが登場した。

シチズン プロマスターは1989年の登場以来、陸・海・空の分野で活躍するプロフェッショナルたちに向け、高い耐久性と卓越した機能性を有するアクティブな時計を作り続けてきたブランドだ。ダイヤルやリューズに施された矢印型のアイコンはより高い空の上、より深い海の底への挑戦を示すものであり、その意志は昨今のプロダクトに至るまで機能やスペックの面で徹底して反映されている。そんなシチズン プロマスターは2024年、生誕35周年を迎えた。そして記念すべき年の始まりを祝し、航空分野にフォーカスした“SKY”カテゴリに2本のニューモデルが投入される。それが、1月25日(木)に発売を控えたブランド初の機械式GMTウォッチ、メカニカル GMTだ。

プロパイロットの使用を視野に入れたSKYシリーズからは、これまでもワールドタイム機能を搭載したモデルが数多く輩出されてきた。だがそのなかに、4本目の針、すなわちGMT針をゼンマイの力で動かす古典的なGMTウォッチは見当たらず、例えば1994年にリリースされたナビホーク(SKYシリーズの記念すべき1本目だ)からしてすでに液晶とサブダイヤルを併用したデジタル制御のワールドタイマーを採用していた。あらかじめモジュールに登録されている都市の時刻をリューズとボタン操作で呼び出すことで、簡単に第二時間帯やUTC(協定世界時)を表示できる仕様だ。その後、2000年台には電波受信方式による調整を取り入れたモデルやGPS衛星電波時計搭載モデルなども続いたが、SKYシリーズとしては基本的に電子制御によるワールドタイム表示の形を取ってきた。

1994年のナビホーク。アナログ部とデジタル部の完全同期を図った多モーターコンビネーションウオッチ。UTC時刻のほか、アナログ部時刻、デジタル部時刻の3時刻同時表示が可能だった。

2016年のエコ・ドライブGPS衛星電波時計。GPS衛星電波時計、F900を搭載したモデルとして登場した。

まあこれは、プロマスターが高精度で高機能なプロフェッショナルツールにこだわってきたことの表れかもしれない。しかしブランド35周年にして、プロマスターは初めて機械式ムーブメントによって駆動する“Flyer”GMTウォッチを発表した。44.5mm径のソリッドなステンレススティール(SS)製ケースにグレーのメッキを施した固定式の24時間表示ベゼルが装着されていて、GMT針がこのベゼルを指し示すことで第二時間帯を知らせてくれる極めてアナログな時計だ。

フランジ部分は既存のSKYシリーズ同様に回転計算尺となっており、8時位置のリューズで操作することが可能だ。また、ベゼルの丸みを帯びた形状は航空機の機体をイメージしており、バンドのエンドピースに入れられた斜めのカットは翼断面に着想を得て空気の流れを表現したものだという。“プロマスター初の機械式GMT”という新たな取り組みを示す冠がついてはいるが、各ディテールはこの時計があくまでプロマスターのSKYシリーズに属するモデルであることを主張しているようにも見える。なお、ヘアライン仕上げを主体としたケースには要所にポリッシュによるミラー仕上げが施されており、全体のルックスにメリハリと高級感を生み出している。

防水性能は20気圧。搭載しているムーブメントはCal.9054で、最長約50時間のパワーリザーブと第2種耐磁を備えている。なお、今回のリリースでは、ベゼルのみにメッキを施したSSモデル Ref.NB6046-59Eと、ブレスを含めて全体にメッキを施したNB6045-51Hの2型が用意された。価格は前者が13万2000円(税込)、後者が13万7500円(税込)となっている。

ファースト・インプレッション
シチズンは同社のなかでも特に機械式時計に注力するブランドであるシリーズエイトから、2023年にFlyer GMT機能を搭載する880 メカニカルを22万円(税込)という価格でリリースした。2017年のチューダー ブラックベイ GMTの登場以来続いているFlyer GMT民主化の流れに、シチズンも合流した形だ(880 メカニカルについては、僕が去年、ジェームズが今年Hands-On記事を書いている。チェックして欲しい)。そして今回発売されるシチズン プロマスターのメカニカル GMTは、プロマスター SKYシリーズの正統進化というよりも、880 メカニカルに搭載されていたCal.9054を用いながら無骨なパイロットウォッチのパッケージで再構築したものだと僕は捉えている。

2003年のプロマスター エコ・ドライブ電波時計。

強いて言えば、メカニカル GMTは2003年にリリースされたプロマスター エコ・ドライブ電波時計を思い起こさせるデザインとなっている。針とインデックスの組み合わせにインナーベゼルの回転計算尺、リューズのローレット加工や特徴的なカッティングが入ったエンドピースなど、共通点は多い。だが、シチズンからのリリースには該当モデルの復刻やオマージュを匂わせる内容は一切見受けられない。直近のSKYシリーズを見てみても、デジアナ表示に43都市のワールドタイムを搭載し、それらをエコ・ドライブ光発電によって駆動させるハイスペックなモデルが目立っている。メカニカル GMTのデザインは、昨今の流れからするといささか唐突に見える。今作においてはプロマスター SKYシリーズのデザイン文脈を踏襲し、パイロットウォッチとしての“らしさ”を追求した結果、2003年のモデルに近いデザインに帰着したのではないかと考えている。

どちらかというとメカニカル GMTは、880 メカニカルに続く機械式GMTウォッチカテゴリの拡充に投じた一石としての意味合いが強いように思う。ムーブメントはそのままに、デザインの方向性や価格帯までも調整し、異なる層にアプローチをかけたというわけだ。880 メカニカルで特徴的だった情緒的な文字盤のあしらい(東京の夜景を表現したロマンチックなものだった)やツートンベゼルはその面影もなく、カラーと装飾を抑えたマッシブなデザインに終始している。

個人的には、この選択肢は非常に魅力的だと感じている。シチズンのFlyer GMTに価値を見出しつつも、880 メカニカルのコンセプチュアルなルックスがマッチしなかった人もいたのではないかと思っていた。(わかりやすいツールウォッチが好き、という僕の好みは置いておいても)シンプルなダイヤルデザインは、万人に受け入れられる受け皿として確実だ。また、税込で14万円を切る価格帯も注目すべきだろう。もちろんシリーズエイトは金属の表面仕上げに定評があるブランドではあるし、メカニカル GMTは固定式ベゼルのために第三時間帯まで表示できないといったデメリットもあるが、これまでFlyer GMTのベンチマークにされがちであったミドーのオーシャンスター GMTを大きく下回るプライスだ。GMTウォッチに求めるスペックが明確なら、メカニカル GMTは有力な候補となる。

ちなみに、個人的にはブレスまでブラックメッキで統一したRef.NB6045-51Hを推したい。リリースの画像では、サンレイダイヤルは控えめなグレーに見えるし、ダイヤル上の“GMT”表記やGMT針も全体に馴染むようモノトーンに抑えられている。まだGMT針の視認性にありがたみをおぼえるくらい旅をしていないからかもしれないが、視認性を重視する既存のSKYシリーズには見られないこのアプローチはかえって新鮮に映った。実際の色味がどうか、というところは実機で確認をしてみたい。

懸念すべきポイントがないわけではない。SKYシリーズとしては当たり前の寸法だが、直径44.5mmをどう捉えるかはあると思う。参考までに、ムーブメントを同じくする880 メカニカルは両回転式ベゼルを備えて直径41mmに収めていた(もちろん、880 メカニカルは10気圧防水でメカニカル GMTは20気圧防水と、ケースサイズはスペックにも反映されているのだが)。比較的小径が求められる昨今において、往年のパネライに迫るようなサイズ感は手首の上でどのように感じられるのだろう。写真を見た限りだがラグは短めに取られているし、厚みも12.7mmと少し控えめだ。より幅広い層に受け入れられる14万円以下のFlyer GMTにおいて、このサイズがどう影響するかは、タイミングがあれば追ってお伝えしたい。

基本情報
ブランド: シチズン プロマスター(CITIZEN PROMASTER)
モデル名: メカニカル GMT
型番:NB6046-59E、NB6045-51H

直径: 44.5mm
厚さ: 12.7mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ブラック
インデックス: アプライド
夜光: 時分針、GMT針、インデックス
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット: ステンレススティール

ケースバックには空のプロフェッショナルに向けて作られたことを主張する、パイロット用ヘルメットのイラストを刻印。

ムーブメント情報
キャリバー: 9054
機能: 時・分・秒表示、3時位置にデイト表示、GMT針による第二時間帯表示
パワーリザーブ: 約50時間(最大巻上げ時)
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 24

価格 & 発売時期
価格: 税込13万2000円(NB6046-59E)、税込13万7500円(NB6045-51H)